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彼らは弱かった。
弱いのに破棄世界にやってきては、彼制作による闘技場に吸い込まれ、幻影にやられ、すごすごと去っていった。幻影の攻撃なので、彼らは勿論死傷することはない。
だからかえって、私達の闘技場は何度も何度も何度も挑戦者を迎え入れる羽目になった。めんどくさい。
「……破棄世界で森を創造した頃、覚えてる?」
「ああ、今は妖精の森になっている、足を踏み入れたらラリっちゃうあそこ」
「……あそこを造ったとき、君が害虫を嫌がっていた理由をようやく理解した。なるほど、これはめんどくさい」
「どうします? もう世界を切り分けちゃいます? 私の力を使ったら分離できると思いますが」
私達は闘技場に新設した観戦席で高みの見物をしながら話していた。
冒険者のご要望にお答えして、悪の魔王と魔女っぽいコスプレをちゃんと整えている。
「でもせっかく作った世界を、こっちが切り分けてやるのは癪だな」
「それならダンジョン作りませんか? ダンジョン。闘技場にたどり着くまでに、とりあえず900階層くらいのものを」
「名案」
そうして私達は魔王と魔女らしく、勇者たちのレベルに合わせた懇切丁寧なダンジョンを構築した。
ゲームバランス無視で作られた彼と、そもそも異世界転生でチートな能力を持つ私。
私達が出てしまえばあっという間に彼らを壊滅させてしまう。そこまでするのは勿体ない。
退屈しのぎをさせてくれる彼らをダンジョンでもてなして。
ダンジョンクリアできた精鋭を、闘技場で幻影と戦わせ、それを眺めて楽しんだ。
たまに興が乗った時は突然登場してなぎ倒してあげることもある。
「うおー! 俺たちを高いところから嘲笑いやがって!」
「降りてこい! 勝負だ!!」
「おい迂闊に煽るな! 帝国四天王が魔王の吐息で全治一ヶ月になったのを忘れたか!?」
「全治一ヶ月で済んだのも魔女が薬を出してくれたからだぞ!?」
「ううー なんでそんなに強いんだ、魔王と魔女……」
「俺らも強くなるぞ! 涙の数だけ強くなれるはずだ!」
魔王と魔女を発見してから、向こうの世界の彼らは生き生きとしていった。
私と彼も、彼らと遊ぶのを心から楽しんだ。
今日も闘技場まで達成した勇者たちの奮闘を見物していたところで、私はふと、あることに気づく。
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