もう少し、君と二人っきりで過ごしたい。

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「あの、貴方。……故郷(げんじつ)で『ソーシャルゲーム』として作られた世界がここでは現実なんですよね」 「分かりきったことを、今更どうした」 「ええ。あちらで紡がれたシナリオが終了しても、ゲームが消えてもまだこの世界は動いている――」 「何がいいたいんだ」 「……仮に、仮にですよ? 私がシナリオを書いて、故郷(げんじつ)に持っていって……投稿するなり、発表するなりしたら、もしかしたら世界は私の筋書きでまた動き出すのかな、なんて」  これはあくまで、ただの仮説の話だ。  正式なシナリオライターがゲームに参加して書いたシナリオでなければ影響を与えない可能性が高い。  それでもそろそろこの魔王と魔女ごっこにも飽きてきた頃だ。また新しい刺激が欲しい。  提案した私を見ていた彼は、ふっと微笑んで私を引き寄せた。  腕の中にすっぽりとおさめて、眼鏡の奥から優しい顔をして笑う。  ――柔らかなその瞳に、魔女の姿をした私が映っている。 「新たな刺激は歓迎するが――しかし僕はもう少し、この時間を楽しみたい」 「……そうですか?」 「君を独り占めできない世の中になってもらっては困るからな。刺激があるのは大歓迎だが」  はるか下、闘技場から怒りの声が聞こえてくる。 「あっ、おい見てみろ! 観戦席で魔王と魔女がチューしてやがるぞ!!!」 「よ、余裕ぶっこきやがって!!!」  魔王と魔女ーー私達は終わった世界で楽しく過ごしている。  正式世界(あちら)の皆さんにはもう少しだけ、私たちの蜜月に付き合ってもらおう。
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