もう少し、君と二人っきりで過ごしたい。

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 つぶやきに応じたように、ポンとソファが出てきた。  私は驚いて彼を見るが、彼は目を閉じて寝に入ったままだ。 「……ど、どこでも◎アー……??」  今欲しい物を口に出してみれば、再びポンと見慣れたピンク色のドアが出てきた。  ドアを開いてみれば、そこには駅前商店街の夜景があった。  ――簡単すぎてあっけない。  パタン。 「帰らないの?」  寝たふりをしていた彼はこちらを見ていた。私は首を横に振る。 「……いつでも帰れるのなら、しばらく帰りたくないです」  正直未練はない。ちょっと現実に疲れていたところだったから。色々と。 ---  あれから色々と試行錯誤して、少し状況が分かってきた。  私はどうやら創造主(クリエイター)と同じ世界から出てきたので、この世界においては何でもありの能力を持つ存在になっているらしい。  こちらで当分過ごすと決めた私は早速ドアを通じていったん故郷(げんじつ)に帰って辞表を出して仕事の引き継ぎと有給申請を済ませ、親にしばらく留守にする連絡をして、友人に心配をかけないようにラインをして、一人で必要な家財道具をこちらに移してあとは引き払った。  最低限の義理は通しておかないと、あの世界で引き続き長く生きる人々に申し訳が立たない。 「大変だね、つながりがあるって」  宇宙空間に座卓を置いて「年賀状不要」の連絡を書く私に、彼は他人事のように言う。 「貴方はずっと一人なんですか?」 「一人だよ。設定も半端だから、親兄弟がいるかどうかも友人がいるかも知らない。とにかく、僕はただの名もない伝説の魔導師だ。」 「それは何よりではないですか。自分でいちから人間関係も居場所も作れますよ」  私の言葉に、彼は足を組んだまま面食らった顔をしていた。  彼が諦観と退屈以外の表情を見せるのは初めてだ。 「何か変なこといいました?」 「……別に」
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