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昼下がり、私達は庭で紅茶を呑みながら、鳥を眺めながら森を楽しむのが日課になっていた。
空には真昼の月のように、正式世界が浮かんでいる。
「僕は、ぼんやりとあの星を眺めること以外知らなかったけれど…………こういう暮らしも、悪くないね」
独り言のように呟く彼に私は耳を疑った。
驚く私に彼は苦笑いする。
「ここなんて、どうせ捨てられた世界なのにさ。……よくここまで作ったものだよ、君は」
「……あえてこの言葉を使いますが。『どうせ捨てられた世界』だからこそ、あっちを気にせず好きにすればいいんですよ」
彼は私の顔をまじまじと見つめた。何か、すとんと腑に落ちるものがあったのかもしれない。
「ああ……そうだね」
言いながら彼は紅茶に目を落とし、ゆっくりと味わうように口にする。
美味しそうに目を細めるその顔は、とても破棄されたデータとは思えない。
「あっちに捨てられたからって、こっちがあっちに焦がれ続ける必要は……ないんだよね」
「そうですよ。好きに生きればいいんです、あっちもこっちもお互い」
少し寂しそうな顔をして空を見上げる彼に、私は追加の紅茶を注ぐ。
「そうだ、他の人間も召喚してみたらいかがですか? 街を作ってにぎやかに暮らすのもいいかも」
「今はいいかな。君ひとりで十分騒がしい」
もう少し、君と二人の時間を楽しみたい。
最後に彼は、小声で小さく付け足した。
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