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人間らしい生活をする中で、彼は弱さも見せるようになった。
「僕はどうせ要らない存在だ。正式世界ではきっと、僕を元にした『本当の僕』が生きている」
「さあ。私は見たことないですけどね。貴方みたいに綺麗で、強くて、臆病なキャラ」
私がきっぱりと断言すると、彼は言葉を飲み込むように押し黙る。
「ご存知かもしれませんが――同じDNAを持つ一卵性双生児でも別の存在です。大人になって離れて暮らしたらなおさら人生は被りません。それなら、万が一多少出自がかぶってる「誰かさん」が向こうの世界にいたとしても、貴方とその人は別ですよ」
「そんなの、半端な破棄データではなく、君みたいなちゃんとした人間の話だろう! 詭弁でしか……」
「あの。こうして同じものを食べて寝て、暮らして、触れ合えて、それでこういう時だけ違う生き物ぶるほうが詭弁ですよ」
「……手を、繋ぐな。こんなときに」
「β版で貴方のデータが作られた段階で、貴方の淋しさや不安や……この手の温かさなんて、設定されていた訳、ないじゃないですか。貴方はもう貴方として生きてるんです」
「……」
「ほらほら、拗ねる暇があったら美味しいもの食べましょう。久しぶりに地元でスイーツ買ってきましょうか」
「いや、…………違うのがいい」
「ん、じゃあ何がいいですか?」
「君が作る、甘いものを食べたい」
「うーん、わかりませんね……」
「あの、………………ふ、ふかふかの、蜜がかかった、」
「スフレパンケーキですか。あれ作るの、結構たいへんなんですよね~」
私がちょっと意地悪を言うと、彼はしょげた子供のような顔をする。私は笑った。
「しょうがないですね。作ってあげましょう」
彼がすねた時、喧嘩したときはきまって私はスフレのパンケーキを焼く。
彼は蜂蜜をたっぷりとかけながら、すねた顔を作って食べている。食べる勢いと輝く目で、全然拗ねてるようには見えないけれど。
「……僕は最近、君に子供扱いされている気がする」
「子供扱い、いいじゃないですか。だって貴方、作られてまだ3年くらいだし……来年は七五三しないとですね、七五三」
「シチゴサン?」
「子供が無事に育ったことを祝うお祝いのことですよ。3歳、5歳、7歳。その年まで生きられたらまずは万々歳ってことです」
「……子供の命って、儚いものだな」
彼はめずらしく、月のように浮かぶ正式世界を見やった。倣って私も空を見上げる。
「はじまりすらなかった僕たちの世界はともかく――あちらの世界は、どれくらい生きられるのだろう」
――ノスタルジアファンタジアの正式版がスタートになって、もうすぐ3年だ。
ソーシャルゲームの寿命は3年未満がほとんどだと言われている。
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