もう少し、君と二人っきりで過ごしたい。

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 破棄世界(こちら)は最初から創造主(クリエイター)から見捨てられていた。  しかし正式世界(あちら)は違う。  手塩にかけて世界が構築され、創造主によって与えられ続ける未来があった。  それがいきなり消えたら――生きている人たちにとっては阿鼻叫喚だろう。 「でも私達は、白紙の未来に生きるのに慣れてますもんね」 「君は、これからどうしたい?」 「そうですね……しばらく、あちらの様子を見て楽しみましょう」  私はアリの巣観察キットを思い出していた。 「向こうには貴方のようなパワーバランス崩壊させる『伝説の魔導師』もいなければ、私のようなイレギュラーもいません。これから彼らが力を合わせて努力して、世界の続きを作っていくのを楽しみませんか」 ---  私たちは、彼らの暮らしを覗く超超高精度な望遠鏡を作って観察を始めた。  彼は観察を通じてあちらの世界の魔法を分析し、さらなる研究に生かし始めた。  最近では大規模な闘技場を作って、彼らを模した幻影と戦って楽しんでいる。 「おい君! 今日はやっと向こうの一番強いやつに勝てたぞ!」 「おめでとうございます。すごいボロボロ。早くお風呂入ってきてください」 「今日はどこの湯だ!?」 「武雄です」  彼は何かあるたびに、広い世界を翔けて私を探して報告してくる。  抱きしめられると温かい陽の匂いと、汗ばんだ彼の匂いがする。
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