転生魔法少女は助けた王子に執着されている

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 昼の城下町に教会の鐘の音が響き渡った。いつもとは違い、年に一度しか鳴らない鐘の音だった。 (そっか。もうこんな時期なんだ……)  花屋の店先で水遣りをしていたサフラ・アマランスが空を見上げると、白い鳩の群れが雲一つない青い空を飛んでいった。次いで聞こえてくるのは、子供たちのかしましい話し声。 「お母さん、ぼくもね、変身できるんだよ」 「わたしね。ウサギに変身できるんだって!」 「ボク、変身できなかった……」  母親に手を引かれながら上機嫌に話す子供たちと、俯きながら悔しそうに話す子供たち。中には涙ぐんでいる子供もいた。  パレードの様に連なって教会から出て来た親子の内、上機嫌に話す子供を連れた母親がサフラに近づいて来たのだった。 「ここ花屋よね。お花を買ってもいいかしら。うちの子のお祝いに」 「ええ。どうぞ」  サフラが店内に案内すると、中にいたサフラの母親が親子と話し始めた。 「お祝いの花ですか? という事は、今日の儀式は……」 「ええ。変身できたんです。うちの子は鳥に変身出来て……」 「そうですか。おめでとうございます。うちの子は変身能力がなかったもので……」  そんな話を聞きながら、サフラは店頭に並ぶ花々に水を巻き続けた。その間も何人もの子供たちが花屋の前を通り過ぎて行き、各お店では今日の儀式に参加した子供たちを労う言葉や祝い言葉、励ます言葉が飛び交い、街全体が騒がしくなった。 (そんなに凄いものなの……? 変身できる事って)  そんな事を考えていると、サフラの目の前を紫色の小さな影が横切った。 「ジュンコ! あっちの森で馬車が襲われているわ!」  背中に四枚の透明な羽を生やし、紫色の髪をツインテールにした少女の形をした妖精は、サフラのおさげにした赤紫色の髪を繰り返し引っ張る。 「わかったから。引っ張らないで」  サフラは小声で返すと、店の中に入って行く。 「お母さん、ちょっと出かけてくるね」 「待ちなさい! サフラ!!」  サフラはジョウロを置くと、すぐ外に飛び出す。教会から出てきた親子を掻き分けながら、サフラは妖精が示す方に駆け出したのだった。
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