転生魔法少女は助けた王子に執着されている

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 洗礼さえ終わってしまえば、変身能力について調べられる事はない。変身能力がある子供はやがて国から迎えが来るが、変身能力がない子供は普通の生活を送る事になる。  サフラはなんとか洗礼の儀式で変身能力を隠し通すと、その後の九年間、自らの変身能力を誰にも知らせなかった。  たまに魔法少女に変身して魔物と戦うが、それは放っておくと自分や家族に危害が加えられそうになった時だけで、後は国に任せた。  今回も放っておくと、城下町に住むサフラたちが危険に晒されるから。王子の馬車を助けたのは偶然であり、正体もバレるはずがなかった。それなのにーー。 「こんにちは。昨日の魔法少女さん」  カイルの馬車を助けた次の日、サフラが花屋の店番をしていると、花屋の前に何故か王家の紋章が入った馬車が止まった。様子を伺っていると、箱包みを抱えたカイルが降りて、花屋のドアを開けた。そして開口一番に、「魔法少女さん」と呼ばれたのだった。 「昨日は助けてくれてありがとう。今日はお礼に来たんだ」 「……人違いです」  馬車とカイルに気づいた近所の人や野次馬たちが花屋の周囲に集まってきて、とにかく恥ずかしかった。とりあえず、サフラは自分以外誰もいない店内にカイルを入れたのだった。 「人違い? そんな事ないだろう。昨日、ぼくを助けた後、こっちに向かって飛んで行った事だし。これはお礼の品だ。受け取って欲しい」 「人違いです。お引き取り下さい」  サフラはドアを示したが、カイルは引くつもりは無いようだった。それどころか、持っていた箱包みをレジカウンターの上に置いてきたのだった。 「こんなもの受け取れません。お持ち帰り下さい」  サフラが箱をカイルに押しやっていると、レジカウンターの下からポルが顔を覗かせた。カイルはポルをじっと見つめながら話し出したのだった。 「変身能力を持つ者たちは国中あちこちに居る。けれども、妖精と契約して魔法少女になれる者は王族しかいない。その王族も、今は妖精を見るのが精一杯で、誰も妖精と契約出来ていないんだ」 「そ、うなんですか……?」  サフラ以外、妖精の姿を見れる者がいないと思っていたので、カイルの言葉に戸惑ってしまう。カイルは小さく頷いただけだった。 「君の事は調べさせてもらった。洗礼の儀式では変身能力無しと判断されたらしいと……上手く誤魔化したね」 「国に突き出しますか? 魔法部隊に入れるように」 「まさか。そんな惜しい事をする訳がないだろう」 「じゃあ、どうするんですか?」  カイルは小さく笑うと、そっとサフラの手を取る。サフラは手を引っ張るが、カイルのどこにそんな力があるのか手を離してくれなかった。 「ぼくのパートナーになって欲しい」  そして、カイルは手の甲に口付けたのだった。
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