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「あっちいなぁ!」
ミーンミーンミーンミン…と鳴く蝉の声を聞きながら、涼は下敷きをうちわ代わりにしてひっきりなしに落ちてくる汗を扇ぎ飛ばしていた。
四時間目の体育が終わったばかりの教室には、涼と同じように上半身裸になっている男子が同じように掻く汗を拭ったりしながら、身だしなみを整えていた。
「気持ちは分かるけど…早く着替えないと、女子が戻って来るよ?」
「コウ」
高校に入ってクラスが同じになり、席が近くなったことで仲良くなった浩太がジャージの襟元まできっちりファスナーを閉めた格好で立っている姿を見て、げんなりとした表情をする。
「お前…なんでそんな暑苦しいカッコーしてんだよ」
「え…」
「汗だって…掻いてねぇみて~だし」
漆黒ともとれる日差しを照り返して艶やかに輝く髪と、同等に黒く光る切れ長の瞳。
纏う雰囲気はぴっちりと着こなしたジャージからも察することができる通り真面目な気質が滲み出ていて、短髪を茶色に染めてツンツンに立てている涼とは、見事なまでに対象的な浩太の細い首筋にがっしりとした腕を回すと、
「オレの汗を浴びろ~」
と言って絡んで行く。
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