三時間前。

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  「コウ~、いいんちょがいじめるよぉ~」  クラス一のお騒がせ男でもある涼に対して、彼女の態度は熾烈なほどに冷たい。  ふざけて何が悪い、と言わんばかりに、何度注意されてもバカなことばかりしている涼がそう言って近くにいた浩太に泣きつくと、いつもならすぐに涼の肩を抱き、 「嘘泣きするとよくないことが起こるから、泣かない泣かない」  と慰めてくれるはずなのに、胸は貸してくれるのにぼうっと突っ立っているだけで声もかけてくれないことに気づき、顔を上げる。 (えっ)  珍しく浩太が赤面してる、と、日焼け知らずの白い頬を朱に染めているその横顔をまじまじと見ていると、さらに耳まで赤くなった浩太が腕を振り上げ、傍にいる涼を遠ざけた。 「リョウも…早く着替えた方がいいよ」  いつもの態度とは違い、冷たく遠ざけられたことにショックを受けて呆然とする涼を残して自分の席に戻った浩太は、制服とボストンバックを掴むと、顔を俯かせたまま教室を飛び出して行く。 「…なんだよ…」 「お前のバカ騒ぎに、ついに愛想つかしたってことだろ~なぁ」 「んだとぉ!」 「―――いい加減」  ぼんやりと浩太の後ろ姿を見送っていた涼の尻を、ヒュッと空気を鳴らして手を振り上げた委員長の手のひらが強かに打つ。 「ってぇッ!」 「いつまで女性の前に破廉恥な格好を曝したら気が済むんだこの痴れ者がッ! 恥を知れ、恥を!」  雷鳴が轟くような委員長の怒号が止むと、呆然と二人の姿を見ていた誰ともなくから拍手が巻き起こる。  涼の前でふん、と鼻を鳴らし、腕組みをして胸を張る委員長を、尻を叩かれた涼も思わず、 「…ブラボー…」  と呟き、称賛したのだった。 .
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