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◇
放課後、凛は、隣の教室に向かった。開け放たれたドアから覗くと木村咲也が、学生服の第一ボタンを外して、帰ろうとしているところだった。
教師の前では外す勇気もないのに、学校を離れると少しイキってみたいのだろうと、そういうところも可愛いと凛は思っていた。
凛は咲也のところに駆けていく。
「ごきげんよう。木村様。
わたくし、このようなお花飾りを作りましたのよ。あなたに差し上げようと思いましてお持ちしましたわ」
凛は背筋をピンとして口元には常に笑みを浮かべながら話す。
「おー、上流階級ってのは、こんなのを気軽にプレゼントするんだ。
じゃあ、お前んち、金持ちみたいだから遠慮なくもらっとくよ」
そう言って、咲也は、凛の押し花飾りを受け取ると学生服のポケットに入れ、「じゃあな」と右手を上げる。
「ごめんあそばせ」
凛はそう言うと腰をきっちり30度曲げてお辞儀した。
背筋を正すと、目の前にはすでに誰もいなかった。
「咲也くん、お嬢様が好きって友達に言うくらいだから、花言葉とか、もちろん知ってるよね」
凛は、開け放たれた教室のドアを見ながらつぶやいた。
「赤いアネモネの花言葉は『君を愛す』ですのよ」
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