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パワハラ出来ない。セクハラ出来ない。モラハラできない。
優位な場所で、自分より弱い相手を徹底的にイジメ倒すことができない。
「だったら、戦場に行け」ではない。完全に自分が安全で守られている場所だからこそ――弱い相手を気持ちよく殴れるのだという、鬼畜外道【細谷優人】は憤死寸前。
酒に逃げたい。しかし酒に飲んだら歯止めが効かなくなる。そうなったら自分は、テイクアウト感覚で女をナンパ→ホテルに連れ込みのコンボが発動。
【山田太郎】に変身されてカウンターパンチが決まり、【山田太郎】から会話のログがとられ警察に手錠をかけられることだろう。
このままでは、ストレス解消できずに死んでしまう。というよりも、この男が死んだ方が、世の中のためでもある。
――ワンワン。
そこへ現れたのは、オスの雑種犬。細谷のペットで、名前はサルテ――フランス語に訳すとクズ野郎である。
勘違いして欲しくないのは、こいつは動物が好きだから飼っているのではない。手軽で身近に見下すことが出来て、動物好きの良い人アピールで簡単にDVできる頭の悪そうな女を選別できるから、動物を飼っているのである。
やっぱり、この男は死んだ方がいい人間だろう。
「おー、サルテー。サルテはいつもバカだなー。この小さな頭に、本当に脳みそ詰まっているのか? ん?」
と、笑顔でワンコをわしゃわしゃする細谷。ワンコはワンコで、落ち込んでいた飼い主が上機嫌で頭を撫でているから、こちらも上機嫌で尻尾を振っている。言葉が通じないのは恐ろしいことである。
「おー、よしよしよしー。バカだなー。死ねばいいのに―」
「ワンワン!」
平和であるがこれではない。と、細谷の『ひとでなし』の部分が不満をたらたら垂らす。
サルテの飼い主は慕う姿は確かに癒しを感じるが、この男が欲しいのは、あくまで人間であり。相手が傷ついた反応なのだ。
コレジャナイ感に苛まれた細谷は、ふと悪魔的発想がひらめいた。
人間じゃアウトだけど、犬ならセーフじゃないか。と。
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