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2 市場にて
「――俺、今度アルダと一緒に市に行きたい」
そう唐突に少年が言い出したのは、サリアードが短い夏の盛りへさしかかろうとする最中の出来事だった。
「なぁいいだろ、前から平氏の生活には興味があったんだ。なー、つれて行ってくれよ」
リュカは北大陸に多い深藍の髪に群青の瞳をしており、年のわりに大人びた態度をとる少年だった。しかし母譲りの端正で繊細な顔立ちに似合わず、一度主張し始めると頑なに意志を押し通すところもある。
「そう言われてもな。リュカが困らないか? もしも屋敷の誰かに見られたら」
アルダが勉強をやめ、長い髪をぞんざいに後ろでまとめて簪を刺し直していると、
「大丈夫。平氏の服を着てしまえば、もう誰も俺を、トッサ家の御曹司とは思わないって」
根拠もなにもないのに、リュカは大仰に胸を張った。
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