1 出会い

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「さあ。あたしは男手(おとこで)一つで育てられたから。それに平氏(テジ)の田舎者だからさ。まあ、リュカの母上のようには()()えないよ」 「そっか」  リュカは納得したのか、肩をすくめた。 「その翡翠(ひすい)の瞳に(あんず)色の髪。サリアードでは(めずら)しいから、もっと着飾(きかざ)れば人目(ひとめ)()きそうなのにな。もったいない」  こちらがどきりとするような内容を、少年らしい無邪気(むじゃき)さでさらりと言ってのけると、 「そういえば父上の見立(みた)てでは、今夏は長雨らしいぞ。サンの花が、早くも散ってしまいそうだよな――」  窓の向こうで揺れる花木の枝を、一心不乱に眺めている。  その澄んだ瞳の奥に複雑な光が宿っているのを見て、アルダはなぜか心臓をわしづかみにされた気がした。 「リュカ、その」 「……なに?」  ――なにか悩みがあるなら、あたしに打ち明けてもいいんだぞ。  言いかけようとして、物憂げな少年のまなざしに気圧される。 「……いや、なんでもない」 (きっとこの子にとって、本館は相当(そうとう)息苦しいんだろうな。だったらまあ、いいのか。ここに入り浸っていても)  はじめは(たん)医療士(いりょうし)見習いが物珍(ものめず)しかったのだろう。だがいつしかリュカは気安(きやす)く世間話をしたり、自由に本を読んだり、昼寝したりするために離れを(おとず)れるようになった。  アルダとて気苦労(きぐろう)の多い医療院で一日すごしたあと、独りぼっちの部屋に気の許せる者がいてくれるのはありがたい。知らぬ都で弟ができたようで、(うれ)しくもある。
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