18人が本棚に入れています
本棚に追加
/144ページ
***
「――アルダ、明日もまた来ていい?」
薫風香る夕暮れ時、熱心に机の書物をめくっていると、ふいにリュカが後ろから覆い被さるようにして、顔をのぞきこんできた。
清涼な香りが鼻をつき、吐息が耳にかかる。背に少年の重みを感じて、アルダは苦笑しながら首を回した。
「ああ。なにか食べたいものがあれば、帰りがけに市場で買ってくるけど」
すると若木のような腕が両肩にかかり、弾んだ声が耳を打った。
「えっ、それじゃこの間、ここで食べさせてもらった餡饅頭がいいな」
なんだかこの若様、最近素直に反応するようになって、ますます可愛くなったような。
「よーし、了解」
弟分の喜ぶ顔見たさに市場の飯屋に走るのだって、もはや日常茶飯事だ。
「でも食べ過ぎるなよ」
「わかってるって」
そんなふうにしてアルダはいつのまにか、リュカといる生活に馴染んでいった。
最初のコメントを投稿しよう!