10 終章 宣誓の儀

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「おまえも行ってこい。あとのことは、俺がなんとかしてやるから」  どこまでも暖かな手が背中を押す。アルダは涙目になって、片目をつぶって見せた武人を見上げた。 「ごめん。さんざんトロイを待たせたのに、あたし、やっぱりどうしてもリュカが好きで。本当にごめん。恩に着るよ――」 「(あやま)るな。目前の利を得ずとも弱きを助け、強きをくじく。それが俺の目指す直氏(スヴェン)のありかただ。先代フェリド将軍のように、な。さあ行け」  (うなが)されて見やった先では、凜とした存在感を放つ青年が輝くように微笑んでいる。  ――お帰り、アルダ。俺の一番星。君は綺麗だよ。この世界のどんな光よりも。  清らかな思念が水滴のように頬を打ち、胸に波紋を描いた。熱い想いがこみ上げてきて、喉が震える。 「ありがとう、リュカ。あたしの心を救ってくれて……」  世界は最初からまあるく一つだったのに。線を引いて、こだわって、遠ざかっていたのはあたしのほうだった。  だけど、もう迷わない。ありのままのあなたを支え、理解し、生きていく。  アルダは夢中で両手を振って合図する。それから優しく降る雨の中、祭壇を降りてきた愛しい人に走りより、開かれた両腕の中へと飛びこんだ。         了
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