19人が本棚に入れています
本棚に追加
「おまえも行ってこい。あとのことは、俺がなんとかしてやるから」
どこまでも暖かな手が背中を押す。アルダは涙目になって、片目をつぶって見せた武人を見上げた。
「ごめん。さんざんトロイを待たせたのに、あたし、やっぱりどうしてもリュカが好きで。本当にごめん。恩に着るよ――」
「謝るな。目前の利を得ずとも弱きを助け、強きをくじく。それが俺の目指す直氏のありかただ。先代フェリド将軍のように、な。さあ行け」
促されて見やった先では、凜とした存在感を放つ青年が輝くように微笑んでいる。
――お帰り、アルダ。俺の一番星。君は綺麗だよ。この世界のどんな光よりも。
清らかな思念が水滴のように頬を打ち、胸に波紋を描いた。熱い想いがこみ上げてきて、喉が震える。
「ありがとう、リュカ。あたしの心を救ってくれて……」
世界は最初からまあるく一つだったのに。線を引いて、こだわって、遠ざかっていたのはあたしのほうだった。
だけど、もう迷わない。ありのままのあなたを支え、理解し、生きていく。
アルダは夢中で両手を振って合図する。それから優しく降る雨の中、祭壇を降りてきた愛しい人に走りより、開かれた両腕の中へと飛びこんだ。
了
最初のコメントを投稿しよう!