1 出会い

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1 出会い

北大陸のサリアード国、その王都リュウゼリアは古来より水の加護(かご)厚き聖地だ。豊富に()き出る清水(しみず)はかすかに甘く清涼(せいりょう)感を(ちもな)い、軽い(やまい)なら数日で治癒(ちゆ)する。この国を守護する龍神に祈れば死病も(なお)るという噂は諸外国に知れ渡っており、都の中心部にある礼拝聖堂はさながら王宮並みの絢爛(けんらん)さだった。  他国から何度も(もう)でる者も(めずら)しくない、この(れい)(はい)聖堂のはす向かいに()つのは王立医療院だ。医療院もまた、他国の追随(ついずい)を許さぬ施術(せじゅつ)水準を(ほこ)っている。  アルダの父は都の北、山岳(さんがく)地域レザンの(さと)に住む巡回医療士だ。かつては都の医療院の敏腕だったのだが、アルダの母が若くして亡くなったのを契機(けいき)に故郷の田舎へと引き()んだ。  だからアルダは都人(みやこびと)などではなく、いわゆる郷者(さともの)として育った。十七になった遅い春の日に都の医療院の扉を(たた)いた時も、見知らぬ地に修行に来たという感覚以外、なんの感慨(かんがい)()かなかった。こんな(はな)やかで(にぎ)やかな街で自分が生を受けたとは、どうもしっくりこなかったからだ。
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