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蛇腹式のシャッターを脇にまとめた昇降口のすぐ中には、[この奥の階段、下ル]を、[この下]に変えただけの同じ置き看板がたたずんでいた。
喫茶店に地下があったのね……。それにしてもずいぶん変な場所に入口を……。
との頭でおりていった、いささか急な階段を照らす埋め込み式ダウンライトの暖色が、稲光を避けられたこととともに、ほっと息をつかせていた。
折り返しをくだりきった右手が、ギャラリーの入口だった。重そうな鉄扉を内側に開いた中からは、煌々とした蛍光灯のクール色とともに冷気が洩れ出ている。
畳二畳ぶんほどのエントランスホールにあった傘立てに畳んでいた折り畳みを差し、ホール内を一瞥すると、そこに人影は認められず―――。
移した視線に入った入口脇の受付台にも人がいないのは同様で、その壁面にぴったりとつけられた折り畳みらしき木製テーブルの上には、ノートPCと束になったフライヤーのような紙、そして、数枚の絵ハガキは販売目的であろう、〈5枚300円〉と値札を立たせ、載せられていた。
そろそろとした足どりで室内へ進んだ。左右を見ても、やはり先客やスタッフらしき者の姿はなく、ただ二台のエアコンの作動音がしているだけだった。
ちょっと不用心なのでは……。
と思ったが、
まあ、PC以外、それほど価値のあるものでもなさそうだし……。
と、失礼な想像で帰結。
一面コンクリートの打ちっぱなしだったギャラリー内は、喫茶店のフロア―と同等な床面積なのだろうが、同じくコンクリートの太い柱が中央に立っていても、客席などがないぶん広く感じられる。また、そんな見た目ゆえ、寒々しさを覚えもした空間だったが、一切の窓がないことによってであろう外界からの音の遮断が、雷恐怖症の心拍数を落ち着かせ、そのマイナスな印象を相殺していた。
さて、どうしたものか……。
四方に飾られた、一目で草花のものとわかる写真群に目をやり、考える。
そういった展示物に興味などなかったわたしは、スマホで小説でも読みながら時間を潰したかったのだが、
『今にもあそこからスタッフが出てくるかもしれないじゃない』
との注意喚起が、スチール製のドアを見ながらの脳からよこされた。それは入口の対面の壁、その一隅に設えてあった。
……しょうがない。
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