(二)

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 ほかに手立てが見つけられるはずもなかったので、受付の後ろにある作品からまわっていくことにした。  作品はすべてフレームに収められ、ぜいたくな間隔で並べられている。また、それぞれの下には、可愛らしいメモ用紙に、作品タイトルと被写体になっている草や花の名前が記されており、加えて、それらが誕生花となっている日、並びにその花言葉なども添えられていたので、思いのほか見入ってしまった。  サイズは様々で、大きいものでは自分の上半身ほど、小さいものだと2L版ぐらい。そして、大きめのもののほとんどは、スポットライトの明りも受けている。  そのコンパクトな照明機材は、天井にいく筋も流れるバトンから吊られ、自由な移動が可能のようだった。  展示会をするだけあって、やっぱりうまいな~。  そう感嘆を連続させていたわたしは、入ってきた当初とは打って変わり、飛ばすことなく作品たちを眺めていっていた。もちろん写真技術のことなどまったくわからないので、その「うまい」は一概に、“綺麗”“可愛い”“鮮やか”という単純な感想からしかきてはいなかったが。  ただ、三辺の壁をまわり四辺目の、そして最後の一枚で、  えっ……!?  その三つの形容は、跡形もなく吹き飛ばされた。  開いた鉄扉に隠れるようにしてあったそれは、映画のポスターほどに引き伸ばされた大きさで―――。 「なに……これ……」  無意識に声がこぼれた。  凝視する先には、草花から一転しての―――人物写真。  しかしその後ろ向きの姿は、いたって普通の状況とは考えられず―――。 「どうして……」  つぶやきが誘い水になったか、脳髄は突如として、あのときの記憶―――恐怖と同時に興奮を覚えたあのひとときを、ごく自然とその内に映写し始めた。
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