(三)

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 その唾液は、異常なほど垂れさがった舌の先端からも流れだしていて……。  すると、弛緩しきった暗紫色の顔面は、なにを思ったか急激にズームアップされてきて―――、  視界は彼女の背面へ戻った。  あの若く可愛らしい顔が、そんなになっている……。  あの清楚なお嬢さまが、悪臭を放ち、汚物を垂れ流している……。  ―――早く見たい!  一段高くなっている教壇の側辺までくると、黒板に貼りつくようにさがる彼女の、全身が現れた。  細い両足には、スカートの中から伝っている黄色を濁らせた液体が、幾本もの筋を描いている。そしてそれは、パンプスを飛ばした爪先から滴れ落ち、床に広い溜まりをつくっていた。  うつむく横顔は、まとまりをなくした髪の毛に隠され、まだ窺えない。  だが、その細い、しかし命を落とすには充分な重さを持つ躰をふり向かせれば……。  強度を増していたトイレでの排泄直後にくる悪臭が、わたしにとっては今、興奮剤の一つにもなっていて―――。  はやる気持ちを押さえ、教壇に足をかけた。  一歩……二歩……三歩……。  彼女の横に立った両足は、そこではじめて微細な痙攣を生じさせた。  人の目を気にする意識など微塵もなかった。そもそも、こっちを眺めている者などいなかっただろう。  おそるおそる、彼女の腰部に手をかけた。湿り気と、微かに残る体温を両掌に感じる。  一本のロープで支えられている躰は、当然なんの抵抗もなく動き……。  目前に現れたスリムな腹部。純白のブラウスも彼女の体液で肌に貼りつき、素肌の色を呈している。  この上に、わたしを興奮の絶頂に導く景色が広がっているはず。―――との期待が、いやが上にも鼓動を激しくさせていた。  一度目をギュッとつむり、開けた。そうやってこれが夢でないことをたしかめたわたしは、視線を一気にふりあげた。―――途端、 「いらっしゃいませ」  ヒィッ!  とびあがらんばかりにしてふり返ったそこには、元のギャラリー内の風景の中、小柄な女の子が立っていた。 「ご挨拶遅れて、失礼いたしました」  そう頭をさげた彼女のブレザー姿の身なりは、学生と一目でわかり―――高校生? 「あ、はあ」  動悸が収まらない胸のまま、つられてこっちも軽く首肯すると、 「ごゆっくりご覧くださいませ」
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