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(思索①)
(思索①)
……どうして……どうして……どうして……。
崩れた氷の音が意識を戻した。
途端、薄い雨音が耳介に流れ込む。
窓外に広がる高木の繁茂を再び捉えた視界は、
「戻り梅雨……か」
そんな台詞を頭に送った。
「ごゆっくり」
ソフトな笑みでウェイトレスが去ってから、どれほど経ったか。
全身に汗を浮かべているアイスコーヒーのストローに口をつけ、吸い込むのは恐る恐る。
“グフッ、グフッ……”
案の定むせた口に、すかさずハンカチをあてた。そして首に巻いたスカーフを直すのは、もう癖になっている。
そう広くもない二階席にはほかに誰もおらず、思索をめぐらすのに好都合だった。
しかし―――。
……どうして……どうして……どうして……。
脳は疑問をくり返しこだまさせるだけで、その答えを導きだす予兆すら感じさせなかった。
彼女―――望があんな心境になってしまったのは……どうして。
ヒントすら得られる見込みのないことはわかっていたが、再度、卓上の小型PCの横に添わせた便りに視線を移す。
彼女のことが頭に浮かんだそもそものきっかけ―――同窓会案内。
そのままの目で考える―――。
プレッシャーだったのか……。
―――はたしてそれでいいの……。
でも、そんなことで……?
―――いや、人間とはそんなものかもしれないじゃない……。
その自問自答を、いつしかつぶやきとして洩らしていた自分に気づかせたのは、やはり鳴った氷だった。
グラスは暗褐色と透明な層に、すっかりわかれている。
渇きを充足させていなかった喉が、変わらず潤いを要求していた。
撹拌したストローで、薄まっている苦みをわずかに含み、そしてゆっくりと嚥下する。
“グフッ、グフッ……”
自然と潤んだ瞳に映る往復葉書の返信期限までには、まだ結構あった。
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