(三)

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 わたしたちのクラスの成績は、五クラスあった中での最下位だった。前年からクラス替えのなかった同じ顔触れの中には、受験組のできるメンバーも多かったが、元来からできない者たちも、なぜかほかのクラスより集まっていた。であるから、決して彼女の指導力不足とはいいきれないと思う。それにオバサン教頭のその激烈な態度の中には、同性としての嫉妬も働いていたのではないだろうか……とも、女子の仲間内では噂されていた。その弾けるような若々しさと可愛らしさへの、ジェラシー―――。  現場に通りがかったのは、なにも生徒ばかりではなかった。  しかし、ほかの教師たちはみな同様、“触らぬ神に祟りなし”といった態の見て見ぬふりで、毎度ゆきすぎていた。そんな職員たちだったので、あとあと教頭に意見を挟むどころか、新米の彼女に対して人知れずのフォローを入れることも、一切なかったのではないか……。もしあったとしたなら、おそらくあんなことには……。  それらはもちろんわたしの憶測だ。でも、仲のよい友人たちの意見も同じではあった。  事件後開かれた臨時の保護者会では、学校側より、「彼女は神経を弱らせていた」という公表があったと聞いた。それに気づけなかったことに関しては、申し訳なかったとも。  そこで生徒たちからの目撃談を聞いていた父兄サイドから、 『彼女がそうなってしまったのは、教頭の、彼女に対する事あるごとの叱責によってではないのか?』  という真理を衝いた強い質問が、当然ながら飛んだ。  もともと傲岸不遜とも思える態度を隠しもしないこの教頭に、父兄の面々もよいイメージは持っていなかったと思う。  しかし返ってきた答えは、 『叱責などとんでもない話で、あくまでアドバイスである』  との、お決まりの逃げ口上だった。  そして、 『しかも、それらの助言はいつも和やかに行われ、感謝の言葉もその都度もらった』  といってのけもしたのは、当の教頭本人だったというから、怒りを通り越してあきれた。  また、“実は男にふられたのが原因だった”という安直な噂も流布した。お嬢さま体質から、そういったショックに免疫がなかったゆえに、と。   はなはだ説得力に欠けるその理由をもって広めたのが誰なのか、もっぱら知る術もなかった。が、どうしても教頭の顔を思い浮かべてしまうのが自分だけではなかったのを、友人たちとのおしゃべりの中で知った。
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