(三)

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 すぐさま生徒全員を対象にカウンセリングも行われたが、なにを話し、なにを聞いたのか、まったく覚えてはいない。わたしとってはそんなこと、どうでもよかったからだろう。  いずれにしろ、二か月少々で彼女は壊れた。  あの場で命を絶ったのは、もしくはクラスに対する懺悔の意味があったからではなかったか……。まともな授業ができず、申し訳ないという。  ただ、わたしにとってその謝罪の行為は、皮肉にも、どんなベテラン教師も成しえない素晴らしい授業となった。―――一生知りえることのなかったであろう自らの秘部―――もしくは深層欲望とでもいうか―――を、その身を呈して彼女は教えてくれたのだから。           (……ノゾミ……)  しかしどうして―――。  ひと際大きな雷鳴が、意識を現在に戻していた。  ―――草花の写真の中に、一枚だけあんなものがあったのだろうか……。  長い髪。それと首を束ねるようにして巻きついたロープ。結び目で一本になったそれは、一直線に上方へ伸び……。  うなだれた後ろ向きの女の、膝元から上を撮った写真は、確実に首を吊っているところ。  はっきりとした歳のころはわからなかった。だが、柔らかそうな真っ白なワンピースから覗いた腕の、細く艶やかな感じが若い女をイメージさせた。そして、夜間に撮られたようなそれが遺影を想像させもしたのは、幅のある黒枠のパネルに収められていたからで―――。  はたして「草花の夢」に、なにか関係があるのか……?   いや、あったとしても悪趣味すぎる。  そもそもあれは、本当の首吊り現場の写真なのだろうか……?  写っていなかった足元は、地面にしっかりついていたのではないか……?  いや、でも……。  と、疑いは自分の過去の経験がすぐに打ち消した。  実は以前、死体写真―――首吊りに限ってだが―――を、ネットや書籍の中に探してみたことがあった。しかし、見つけても予期した通り、みな眉唾ものの臭いが拭えなかった。その証拠が、ちっともわきあがってこなかった興奮で―――。  ところが、引き伸ばされたさっきの写真は、それらとはまったく異なり、真実が放つ衝撃力を確実に持っていた。だからこその濡らしてしまった下着であり、それは思い返した今、新たな湿り気を発生させてもいる。  あれはフェイクではない。―――限りなく確信に近かった。
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