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雷の気配はなかったものの、引き続きの雨模様だった翌日。放課後の足は、あのギャラリーに向かっていた。
置き看板は昨日と同じ位置に置かれ、傘立てに立てかけられる傘が一本もなかったのも同様だった。
とびらが開きっぱなしになっているギャラリー内に入る際、一応「ごめんください」と声をかけてみたが、反応はなく、あの女の子の姿も見あたらなかった。
お客が少ないからしょっちゅう留守にしているのかしら……。
すぐさま目的の写真の前に立ちたかったが、精神高揚中、またいきなり声をかけられては心臓によくない。なのでとりあえず、スタッフルームの中を確認しておこうと、なにげなさを装いアルミドアへ近寄った。そして、その隣に飾ってある作品を眺めるふりをして、耳をすませる。
しばらくそうしていた……が、聞こえるのはエアコンの音だけで、中に人の動く気配は感じられない。
とすると、外出、か……。
だとしても、やはりふいに戻ってきて驚かされる怖れはあり……。かといって、それを案じていては、いつまで経っても写真に没頭することはできない。
「ま、いっか」
音にせずつぶやくと、踵をめぐらした。
楽しみはなるべくとっておきたい、という気持ちが無意識に働いたのだろうか、目の前にするまで、できるだけ視界に入れないようにと伏し目で近づいていったわたしの口から、
「えっ!」
驚きが思わず飛びだしてしまったのは、とびら脇に到着し、黒枠のそれを眼中に捉えた瞬間だった―――。
動悸は、異なる意味で昂まった。
違う!……写真が変わってる!
夜間に撮られたような後ろ姿の首吊り写真。そしてパネルサイズに変化はない。しかし―――、
ロープの締まった細い首を露出させているこの写真は……昨日と違う女だ。
ふり返り、意に介すことのなかった作品群の隅から隅までに視線を走らせた。
昨日のうなだれた女はどこにも、ない。
戻した顔で思った。
……どういうこと!?
しかも、今眼前にするこのショートカットの若い女は、締まった首を若干横に倒し、肩をそれとは逆にかしがせている。そのよじれた半身は、無造作に刻まれたTシャツのしわも相まって……。
苦しんでいる。―――直感で思った。
フェイクじゃ絶対にない。―――瞬く間に発熱していた躰がいった。
途端、
「グウォエェェェ~!」
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