(三)

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 断末魔の叫びを聞いたような気がして―――。  急激に襲った興奮の波が、下半身を震わせそうになり、咄嗟に力を込めた。  知らず脳は、後ろ姿から表情を想像し始めていた。  が、ふとその行為がとまったのは、同じくその内に生まれた疑問のせいで―――。 “彼女ははたして死んだのか? そして、昨日の写真の女も”  この写真に作為はない。―――わたしの感性はそう訴えた。とすればこの後、 “命は絶たれた”  そう考えるのが妥当な気がする。  だが……。  写真を撮られているということは、撮った人間がいるということではないか?  目標物である彼女をしっかりとセンターに捉え、ぶれもなくファインダーに収めたこの写真のクオリティーは、撮影に長けた人間が生みだしたものとしか思えず、彼女自らセルフタイマーで、などとはとても考えられない。  いや、だいたいこのような展示イベントに飾られているのだ、死者が撮ったはずはない。やはり、この会の主催者、「雨野花奈」という人物の撮影なのだろう。他人の作品を飾るとは、到底思えないから。  であれば、雨野花奈は彼女の死を、そのまま見過ごしたというのだろうか?   それは自殺幇助という重罪を背負うことになるのではないか?  そんな証拠品を、堂々と展示しているというのは、どういう神経なのだろうか?  そして……、  雨野花奈とは、どんな人物なのか―――?   まさか昨日の、あの中学生にも見える女の子が、ということはないだろうが……。  凝視し続ける新たな後ろ姿が、ここでまた、昨日と同じ問いを喚起させた。  どうして一枚だけ……?  もしや……。  仮説を導いたのは、やはり同じ彼女の、躍動感を感じさせる上半身だった。  実は死にはしなかったものの、彼女らは自死失敗者のよくある末路、“植物状態”になった。だから草花と一緒の写真群の中に……。  だが、 「いや」  否定の感動詞は、すぐ脳裡を衝いた。  これだけ草花を美しく、可憐にレンズに収める人物が、そんな悪趣味極まりない意味合いで展示することなど、さすがにしないだろう。  では……なぜ?  堂々めぐりするその謎を、雨野花奈に投げてみたかった。しかし、彼女らしき人物も、そしてスタッフであろう女の子も、一向に現れず……。
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