(三)

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 思わずジーンズの股部分にバックをあてたわたしは、興奮に包まれ上気している躰を見透かされまいと、すかさず言葉を探した。 「……あの、みんな、綺麗な草花の写真ですね」  少したどたどしさを滲ませてしまったが、後方にめぐらせた顔でいうと、 「ありがとうございます」  素直な喜びが戻ってきた。 「被写体にこだわっているわけじゃないんですけど、やっぱり草花が一番好きで」 「えっ……。ということは……」  同じように、後ろの写真たちに目を向けていた彼女にいった。 「あなたが、雨野花奈、さん?」 「はい。―――あ、たぶん、お手伝いかバイトの子と思われたんでしょ?」  といいながらのにこやかな表情は、わたしが顔に乗せてしまった少なからずの驚きを見たからだろう。しかし、やはりそう思っても仕方がないほどのあどけなさを包含する、その笑みでもあった。 「……実は、ええ。ごめんなさい……」 「いえ、いいんです、いいんです」  そうリボンタイの前でひらひら手をふった彼女は、 「そうですよね~。誰も高校生が単独で個展開いてるなんて、思わないですよね~」  と、視線を四壁にめぐらした。  その気軽な物言いにつられ、つい洩らしていた。 「やっぱり高校生だったんだ……」  すると、 「あ、中学生だと思いました?」  返ってきた問いかけが、すぐ自分の非礼に気づかせ、 「え、あ、いえ……ごめんなさい」  また謝った。 「いいんです、いいんです」  同じ台詞をほころび顔でくり返した彼女は、 「よく間違えられるんです。やっぱりこの背の低さが原因かな~」  独りごちるように首をかしげた。  その可愛らしく幼げな仕草は、やはり高校生には見えづらい。とは思ったが、口には出さなかった。 「写真に? それとも草花に?」  つと、その童顔をわたしに戻した彼女の、そのいっている意味がわからなかったので、えっ? という表情を見せると、 「興味を持ってらっしゃるの」  彼女は大きな目を輝かせた。 「あ、ええ、まあ……両方、かな……」  首吊り写真が目的。とはとてもいえなかったので、そう答えるしかなかった。 「あ、でも、どっちも詳しくはないの。写真のほうは、やってみたいな~、っていうぐらいで」  どの程度の知識か突っ込まれる怖れがあったので、防御のコメントを足した。
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