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(一)
(一)
締めくくりに猫野神社へ足を向けるのは、白由が丘の街をひやかしたあとの恒例だった。
しばらくぶりに見あげる大鳥居。その朱の門をくぐり石畳を少しいくと、社殿に続く石段。それをあがりきったところで、流れる一筋の汗を首筋に感じた。
それほど広いとはいえない境内を見せるこの御宮は、街中に鎮座し、普段の参拝者の足は多くはないが、留まることもない。
手水舎の、思わず顔まで洗いたくなるような冷水で、もちろん手と口だけを清め、社殿へ向かう。
お賽銭を放り、二礼二拍手。合わせたままの手で目をつむり、頭を垂れ―――、
『なにとぞ、受かりますように……』
毎度変わらぬ祈願をし、再度一礼。
そしてあげた目を、厳かな社から後方へと転じる。
高台になっているここから臨むさえぎるもののない空は、まる一日一〇〇%の晴れ予報を微塵も疑わせない、一面のスカイブルーだった。
梅雨の中休み。
それは日常、たいして気にもしない陽光のありがたさを再認識させ、同時に清々しさをも一身にもたらした。それゆえからの、放課後の散策だった。
都内でもお洒落なエリアとして人気を誇る白由が丘の街。その中心にある白由が丘駅は、大学へまでの乗換え駅。なので、わざわざの下車に、それほどのためらいは持たない。
一つ深呼吸をすると、人影のない参道をゆっくりとした歩で戻る。
こんな瞬間にでも、新たなアイデア、浮かばないかしら……。なにせ神さまの領域に、今ひとりっきりなんだから……。
などと、まったくもって都合のいい期待を抱きながら石段を降りきった足は、やってきた朱門ではなく、そこから横に伸びる細道に向いた。こちらも一応、参拝道になっている。―――が、当然正式なものではないはず。
それを使うわけの一つは、駅までの近道であったから。
こんな横着をするから願い事が叶わないのかしら……。と、いつも思うのだが、散策の疲労が自身を甘やかしてしまう。
石垣と、茂る草木を奥に見せる垣根に挟まれたその細道は、すぐに人家の二階部分を覗かせるコンクリート塀にぶつかる。その手前には左から右にくだる坂道が、これまた人ひとりがすれ違えるほどの幅で流れている。連なる境内の高木と、立ち並ぶ建物のおかげで、いつきても日が妨げられているここは、すでに神の領域ではない。
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