(三)

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     *  入口から壁沿いに、少し奥へ入り込ませた受付テーブルでの茶飲み話は、「毎日学校が終わってから、急いでここにくるんです」と、彼女が明かしたことから始まった。  それから、まるで仲のいい部活の先輩を相手にしているがごとく、礼節を保ちながらも陽気におしゃべりを続ける彼女に相槌を打ちながら、ふと頭は―――、  なぜ高校生が、こんなギャラリーを借りられるのか?―――謎を浮かべた。  わかりにくい場所とはいえ、この広さ。結構なレンタル料が発生しているはず。それも看板に記されていた通り、開催期間は一日二日ではない。  アルバイトで貯めたお金で、はたして借りられるものだろうか?  作品の運搬にかかる費用も、少なくはないだろうし……。  富裕な家の娘、なのでもあるのだろうか?  彼女の立居振舞から、品のなさはまったく見受けられないし、そのルックスや言葉遣いにおいても同じことはいえる。―――では、その線が濃いか……。  もしくは、このギャラリーのオーナーの娘や親族……そんな可能性もあるか……。  と推理をめぐらせていたとき、 「お客さんは、どうやってこの展示会を見つけてくださったんですか?」 「えっ―――あ、ごめんなさい。わたし、葦谷望っていいます」  まだ名乗っていなかった無礼を詫びると、キラキラさせている瞳に向かって、一昨日の出来事を正直に話した。ただ、雨宿り目的で降りてきたとは、もちろん口に出さなかったが。 「放課後この街へ散策にいらしたっていうことは、やっぱり大学生だったんですね?」 「ええ」  使い捨てのプラスチックコップを綺麗に片された卓上に置くと、頷いた。 「そうじゃないかなって思ってたんです。雰囲気が完璧に女子大生だったから」  どんな雰囲気なのかわからなかったが、とりあえずけなされているのでないことは明らかなので、微笑んだ。  それから、わたしの通う大学を知った彼女の眼の輝きが増したのは、そこの芸術学部を進学先として志望していたからで、おしゃべりの中身はたちまち、キャンパスのようすや、大学生活の楽しさなどに移行していった。  お茶を囲んで、半時ほども経ったころだろうか。大学に関する話題が一段落したところを見計らい、とうとう彼女へかけた。 「ところで―――あの、入口のとびらのすぐ隣にある写真なんだけど……」
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