15人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
(四)
(四)
「とびらの隣?」
「ええ、どうしてあれだけ人物で、首吊りなのかしら」
すると、
「ああ」
彼女は面を鉄扉に移しながら、
「あれは、まあ一応、供養という意味で展示しています」
「供養?」
こともなげなその語調は、思わずそう訊き返させた。
「はい。綺麗な草花に囲まれていれば、魂も休まるんじゃないかって。―――まあ、勝手な考えなんですけど。
そして、彼女たちはちゃんとこの世に存在したんだ。そう誰かに知ってもらいたいって意味も、あるかな」
「じゃあ、あれはやっぱり冗談じゃなくて、被写体の彼女たちは、死んでいる……」
「はい」
やはり、何事でもないというような返答だった。
聞こえないはずの雷鳴が耳介をつんざいたのは、幻聴か―――。
「毎日違う人が展示されてたみたいだけど、じゃあ、亡くなったのは、三人も?」
さらなる問いまでに一呼吸置いたのは、ほぼの確信があったとはいえ、当事者から聞いた真相が動悸を速めていたからで―――。
「もっといますけど。―――あ、もしかして昨日もいらしてくださってたんですか?」
わいた彼女の喜び顔が、このときばかりは非常に不審に映った。
「もっと、いる?」
「はい。でも、みんなの展示するとスペースとられちゃうから、一枚ずつにしているんです。だって、メインはやっぱり草花だから」
と、彼女は作品群に柔らかな目を流した。
「よくそれだけ、自殺者とめぐり逢えたわね」
渇いていた喉をお茶で潤すと、平静を装いいった。
「いえ、そうじゃないんです」
「……?」
ことの始まりは、友人からの依頼だった。そう明かした彼女は、
「その友だち、首吊りマニアだったんです。なんでも吊ることによって、生きていることを実感できるからって」
わたしの怪訝な顔を見てとったのか、彼女は苦笑を浮かべ、
「よくわからない趣味ですよね。でも、一度やると人生が変わるっていってました。どう変わるのかは知りませんけど」
しかし、その友人はそれだけでは飽き足らなく、吊っている最中の自身の苦悶の表情も見たくなったらしい。
「で、そのときの自分の姿を撮ってくれって頼まれたんです。
どうしてあたし? って思ったんですけど、信頼できる人じゃないと―――あ、これ、その友だちがいったんですよ―――こんなこと頼めないからって」
最初のコメントを投稿しよう!