(四)

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     (四) 「とびらの隣?」 「ええ、どうしてあれだけ人物で、首吊りなのかしら」  すると、 「ああ」  彼女は面を鉄扉に移しながら、 「あれは、まあ一応、供養という意味で展示しています」 「供養?」  こともなげなその語調は、思わずそう訊き返させた。 「はい。綺麗な草花に囲まれていれば、魂も休まるんじゃないかって。―――まあ、勝手な考えなんですけど。  そして、彼女たちはちゃんとこの世に存在したんだ。そう誰かに知ってもらいたいって意味も、あるかな」 「じゃあ、あれはやっぱり冗談じゃなくて、被写体の彼女たちは、死んでいる……」 「はい」  やはり、何事でもないというような返答だった。  聞こえないはずの雷鳴が耳介をつんざいたのは、幻聴か―――。 「毎日違う人が展示されてたみたいだけど、じゃあ、亡くなったのは、三人も?」  さらなる問いまでに一呼吸置いたのは、ほぼの確信があったとはいえ、当事者から聞いた真相が動悸を速めていたからで―――。 「もっといますけど。―――あ、もしかして昨日もいらしてくださってたんですか?」  わいた彼女の喜び顔が、このときばかりは非常に不審に映った。 「もっと、いる?」 「はい。でも、みんなの展示するとスペースとられちゃうから、一枚ずつにしているんです。だって、メインはやっぱり草花だから」  と、彼女は作品群に柔らかな目を流した。 「よくそれだけ、自殺者とめぐり逢えたわね」  渇いていた喉をお茶で潤すと、平静を装いいった。 「いえ、そうじゃないんです」 「……?」  ことの始まりは、友人からの依頼だった。そう明かした彼女は、 「その友だち、首吊りマニアだったんです。なんでも吊ることによって、生きていることを実感できるからって」  わたしの怪訝な顔を見てとったのか、彼女は苦笑を浮かべ、 「よくわからない趣味ですよね。でも、一度やると人生が変わるっていってました。どう変わるのかは知りませんけど」  しかし、その友人はそれだけでは飽き足らなく、吊っている最中の自身の苦悶の表情も見たくなったらしい。 「で、そのときの自分の姿を撮ってくれって頼まれたんです。  どうしてあたし? って思ったんですけど、信頼できる人じゃないと―――あ、これ、その友だちがいったんですよ―――こんなこと頼めないからって」
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