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そりゃそうですよね~。と、緩めた頬で継いだ彼女は、空になっていたわたしのコップにペットボトルを傾けながら、
「彼女、高校一年のときに同じクラスに転校してきた子なんです。それで席も隣同士になって」
次いで自分のものにもそそぎつつ、
「で、話しているうちに、あたしがカメラ好きだってことを知ったんですね。だから依頼してきたんだと思います。
明るくて清楚な感じの子で、そんな趣味があるなんて思いもよりませんでした」
と、そこで小さな口はコップに添えられたので、言葉は途切れた。
にわかには信じられない話だった。が、彼女の目つきや口ぶりは、つくりごとを連ねているそれとは思えず―――。
「戸惑わなかった?」
当然であろう質問を差し挟むと、コップを置いた彼女の返答はするりと戻ってきた。
「ええ、もちろん。
でも彼女、マニアというだけで、死ぬのが目的じゃないから、べつに構わないかって思ったんです。ただ単に趣味に手を貸すだけかって。
首吊りの方法も、安全であることはしっかり説明受けましたし、それに―――ギャラも払ってくれるっていったから」
そこではじめて、恥ずかしげな顔色を浮かべた彼女を見た。
そして、実はそのときのギャラが写真ではじめてもらった報酬だったと、嬉しそうに話した彼女の、その神経がわからなくなってきてもいた。少なくとも、常人とは大きなずれがある。
「その、安全な方法って……」
「あ、踏み台に乗ってやるのは普通の自殺と一緒なんですけど、台は蹴らずに、ただその上で両足あげるだけなんです。これでも当然、苦痛は味わえますよね」
「ええ……」
「その間に、あたしが連写で撮るんです」
「はあ……」
「でもって、もうだめ、限界、と思ったら、そのまま足をつくんです。そうすれば死ぬことはありません」
「……」
「でもあたし、そのとき思ったんです。どうせ足をつくんなら、踏み台に乗らなくてもいいんじゃないかって」
「え……あ、そうね……」
「そしてそれ訊いてみたら、乗るのと乗らないとじゃ全然違うんですって。視界が少しでも高い位置になると、ああ、これからやるんだ、苦しめるんだ、っていうワクワク感が昂るそうなんです。それも首吊りの醍醐味なんだって、彼女いってました」
「はあ……」
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