(四)

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 知らず、身を乗りだすようにしていたわたしを見る彼女は、さすがに驚きを隠せずにいる。 「一緒に、ですか……」 「ええ」  言葉に自然と力が込められていた。 「……でも、今のところ決まっている依頼はないし……。それに、やっぱり部外者が同席するのは、向うも嫌がるんじゃないかと思います。同じサイトのメンバーだったらまだしも……」  そりゃそうか……。と思い直したわたしは、 「じゃあ、今まで撮った写真で、正面からのものとかは、保存してない?」 「え……まあ、あることはありますけど……」 「それ、見せてもらうことって、できないかしら?」 「う~ん……でも、やっぱり本人の許可なしには……。  友だちに頼んで連絡とってもらったとしても、まず興味本位の部外者にはNGって答えになると思います……」  申し訳なさそうな色を浮かべた彼女に、あわてて、 「そうよね、やっぱり。ごめんなさい、変なこといっちゃって」  頭をさげた。  すると、彼女の目は探るように向いて、 「もしかして、お客さんもマニアなんですか?」 「え……いや、そうじゃないんだけど……」 「マニアでもないのに、じゃあどうして? 気持ちのいいものじゃありませんよ」 「―――実は……」  うまい言い訳が思いつかなかったこともあるが、写真をやっていきたいという芸術家志望の彼女であれば、わたしの気持ちを理解してくれるのではないか……。そんな希望も働き、その忌まわしき写真を目にしたい曰くを吐露した。  ―――小学校のときの体験が発端となり、ホラーを主として小説を書いていること。  ―――コンテストではそこそこまでいくが、受賞まではどうしてもたどりつけないこと。  ―――その要因が“リアリティーの欠如”だと、自身でもわかっていること。  ―――そこであのときの衝撃を、仮に二次元の形でももう一度体験できれば、そのリアリティーの欠如を解消できるのではないかと考えていること。  要点をかいつまんで、と思っていたにもかかわらず、向けられ続けた真摯な眼差しが、気づけば詳細に語らせていた。 「そうだったんですか……」  わたしの口の動きがとまると、視線を落とした彼女はそうつぶやき、その小さな唇をそっと噛み締めた。
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