(四)

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「彼女たちの写真は、たしかに無許可で展示しています。でもそれは、さっきもいいましたように、供養の意味ででして、それぐらいは本人も同意してくれるんじゃないかと思って……。だいたい、許可とりたくても、もう無理だし……。  ただ、さすがに正面の写真は……。  彼女たちもそれは望まないでしょうし、見た人が受けるショックも、あまりに大きいだろうし……」  あくまで自分の考えなんですけど。と、面を伏せ、つけ足した彼女へ、 「後ろ姿だけでも充分ショックは大きいけど」  との反駁はできなかった。 「小説の世界のことはまったくわかりませんが、何度も最終選考までいくのにって考えると、やっぱりお客さんのお考え通りなのかもしれませんね……。  すいません、お役に立てなくて」 「いえ、雨野さんが謝ることじゃない。こっちこそ―――」  と語調を強めた詫びは、ふいに脳髄へ訪れた閃光によって途切れた。  そのきっかけは「お役に立てなくて」―――の言葉。 “吊った自分を、彼女に撮ってもらったらどうか……”  きらめきは、そう囁いていた。  魔に魅入られたようなこの驚くべき思考がなぜ生まれたのか、定かではなかった。が、彼女のような存在には今後出逢うことはないであろうとの焦燥、加えて、出逢ってしまったからにはこの好機を生かさずにおくべきかという執念が、おそらくそうさせたのではなかったか……。  それに、時間を守れば死ぬことはない。そう彼女はいった。であれば思い悩むことはない。  結論づけた頭は、躊躇なくその意思を口にさせた。  すると彼女は、一瞬言葉を失ったようだった。しかしそれでも、続いた台詞は冷静なものだった。 「撮ること自体は構わないんですけど……ただ今の時期、野外撮影は難しいです。雨で足場は危険になりますし、写りも確実に悪くなります。できれば機材が濡れるのも避けたいですし」 「そうよ、ね……」  では、先延ばしにするか……という頭が働いた矢先、 「梅雨が明けたら、たぶん公園なんかは、すぐアベックが多くなります。そして、よく利用していた神社や墓地は、実は、亡くなった人たちの多くがなぜかそこでだったので、さすがに警備が厳重になってしまって、もうずっと使えていないんです」  じゃあ、またその先……?  いや、とんでもない。―――胸の内で頭をふった。
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