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このようなチャンスを得たからには、いち速くあのときと同じ感動を味わい、それを寸分違わず、すぐさま原稿に起こしたい。
それに、万が一時間を経ることによって、今生まれている熱気が失われてしまい、そんな行動に怯えを抱くようにでもなってしまったら、元も子も……。
しかし―――だからといって、どうすれば……。
思わず首を仰がせた。
すると、
んっ……。
その目に入ったスポットライトの一つが、思いも寄らない発想をもたらせた。それは天啓といってもいいほどの。
「ここで撮ったらどうかしら!?」
勢いよく戻した顔でいった。
「えっ?」
「ここだったらほら」
わたしは右腕を天井に差しあげ、
「バトンもあるし、照明も」
「……たしかにバトン、強度ありそうですし、おそらく可能でしょうね」
つられてあげた顔で彼女は同意したが、やおらそれを戻し、
「でも……」
若干表情を曇らせた。
「あ、もちろん撮影料はお支払いするわ」
「え、あ、それは、ありがとうございます。だけど……」
「あ、そっか。もちろん観覧時間が終わってからででいいの。雨野さんの都合のいいときに合わせる」
「ええ、それなんですけど―――実は、このギャラリー借りてるの、今日までなんです」
「えっ……」
という驚きが、脳裡に表の看板を映しだした。
開催期日は―――たしかに今日までと書いてあった、ような……。
「だから撮影するなら、これからすぐにしないと。七時には閉めて、後片づけに入らなくちゃならないので。―――ここ、時間の延長が効かないんです」
そう、ちょっとすまなそうにいった彼女は、たとえ後日借りようとしても、もう相当先までびっしり埋まっていると聞いたし、また、こんな感じのギャラリーがほかにあるかは知らず、新たに借りる費用もないと説明した。
「あと一時間と少ししかありません。その範囲で撮れるだけ、でよろしければ」
卓上に出してあったスマホを一瞥し提案してきた彼女へ、否を突きつける理由などない。
「お願い」
張った声で背筋を伸ばした。
「わかりました」
同じように力強く返した彼女の瞳に、どうしてだか艶っぽい輝きを見た気がした。
が、その刹那襲った疑問が、「だけど」口を衝いた。
「カメラや三脚は……」
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