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彼女がスタッフルームから持ってきたカメラと三脚は、案の定、一見して「高価」がわかるものだった。
それらを手早くセッティングした彼女は、再び開けたままのドアへとって返し、今度は脚立と束になったロープを出してきた。パネルを飾るにおいて、脚立があるのも当然のことだろう。
そして、
「ちょっと看板入れてきます」
軽い足取りは階段に消えていった。
結局、展示日の最後の最後で客足をとめてしまうことになった。
いくらちっともやってきてはいない、とは思いながらも、申し訳なさは当然わいて―――。
と、そんな心情が、「あ、ギャラを」思いださせ、バックから財布をとりだした。
もし手持ちのものでは足りなかったらどうしようか、との不安はあったが、息を弾ませ戻ってきた彼女に尋ねると、いたってリーズナブルな金額が遠慮気味な口で返ったので、胸をなでおろした。
「裸で申し訳ないんだけど」
さっそく折り畳んだ紙幣を渡すと、それを両手恭しく受けとった彼女は、「ありがとうございます」深々と頭をさげた。そのとき覗けた制服のブレザーの背中と肩口の濡れ具合が、降りやむどころか強さを増している表の雨を告げていた。
「なにか手伝うことは……」
可愛らしい財布に報酬をしまった彼女へ投げてみたが、
「お客さんにそんなことさせられませんし、逆にひとりのほうが手早いんで」
と、にこやかな顔で拒まれ、受付の元の椅子に座っているようにいわれた。
そして、
「あ、踏み台使う形にしますか?」
壁面に立てかけてあった脚立を開きながらふり向かれたので、
「あ……」
どっちでもよかったのだが、一応、彼女の友人のいう、高くなった視線のワクワク感も味わってみたかったので、頷いた。
彼女のてきぱきとした作業は、さすがに無駄がなかった。
受付で自分が座っていたパイプ椅子の背を柱に密着させて置き、その足元を、鉄扉をとめていた鎮で固定した。そのとき鉄扉も閉め、万が一にも来場者が入ってこないためだろう、施錠も忘れなかった。それが済むと、彼女は器用にロープの先端をわっか状に結い、それを持ったまま椅子の横に置いた脚立にのぼった。
「すいません、椅子の上、立ってもらえますか? 長さ調節しますんで」
そう声をかけてきたのは、バトンへロープ引っかけてからだった。
「あ、はい」
いわれるがまま、座面に足をかけた。
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