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当然ながら高くなった視野は、わずかな気分の高揚をたしかにもたらした。
「降ろしていきます」
頭上からの声とともに、額の位置にあったわっかの先端が、徐々に目の前にさがってきて―――。
そして顔の正面に到達すると、
「ちょっと首、かけてみてもらえますか」
指示がかかったので、おずおずとその通りにしてみる。
生まれてはじめて試みる動作。鼓動はさらに高まった。
と、
「ちょっとあげますね」
を聞いた拍子に、
うっ!
直径二センチもないほどのロープは、首にわずか食い込んだ。
息ができないことはない。しかし、その初体験の感触が、高揚を瞬時に恐怖へとすり替えた。
「どうですか?」
気軽な問いかけに、
「ええ……いいと思う」
と答えた声はかすれていた。
「じゃあ、ここで決めちゃいますから、しばらくそのままでお願いします」
いった彼女の躰が、体側に密着してきた。それは「んっ……んっ……」と力を込めた際のうめきをあげるごとに、わたしの半身をさするように上下した。
それが恐怖の内に、はからずも淫靡な気分をも生み出していたのは、ふたりきりの密閉空間、そして、与えられる咽頭部の刺激という、重なった非日常的なシチュエーションの後押しからか―――。
ロープを結び終えたらしい彼女は、「よし」一言発すると、降りた脚立を壁際へ移動させ、今度はカメラの位置決めにかかった。
「まず、顔のアップからいこうと思いますので」
カメラの液晶モニターを覗きながらかけてきたその声音には、まるで自分の望みが叶うかのような弾んだ色があった。
諸々のセッティングが完了したのだろう、次いでその手は受付テーブル上のスマホに伸び、アラームが鳴るかのチェックに移った。そして、ポップな電子音の鳴ることをたしかめると、
「くれぐれも、この音を聞いたら足をつけてください」
真顔にした彼女は改めて注意を促した。さすがに契約書を持ってきているということはなかったようだ。
かかったロープのせいで頷くことが難儀だったので、「はい」声で答えた。
「一度休憩入れますか?」
続けられたその問いに、どうしようか逡巡したが、できれば自分もいろいろな角度からを撮ってもらいたかったので、さっそくの撮影を頼んだ。―――が、
「あ、でも、雨野さん一息入れたかったら……」
「いえ、あたしのほうはまったく構いませんから」
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