(四)

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 当然ながら高くなった視野は、わずかな気分の高揚をたしかにもたらした。 「降ろしていきます」  頭上からの声とともに、額の位置にあったわっかの先端が、徐々に目の前にさがってきて―――。  そして顔の正面に到達すると、 「ちょっと首、かけてみてもらえますか」  指示がかかったので、おずおずとその通りにしてみる。  生まれてはじめて試みる動作。鼓動はさらに高まった。  と、 「ちょっとあげますね」  を聞いた拍子に、  うっ!  直径二センチもないほどのロープは、首にわずか食い込んだ。  息ができないことはない。しかし、その初体験の感触が、高揚を瞬時に恐怖へとすり替えた。 「どうですか?」  気軽な問いかけに、 「ええ……いいと思う」  と答えた声はかすれていた。 「じゃあ、ここで決めちゃいますから、しばらくそのままでお願いします」  いった彼女の躰が、体側に密着してきた。それは「んっ……んっ……」と力を込めた際のうめきをあげるごとに、わたしの半身をさするように上下した。  それが恐怖の内に、はからずも淫靡な気分をも生み出していたのは、ふたりきりの密閉空間、そして、与えられる咽頭部の刺激という、重なった非日常的なシチュエーションの後押しからか―――。  ロープを結び終えたらしい彼女は、「よし」一言発すると、降りた脚立を壁際へ移動させ、今度はカメラの位置決めにかかった。 「まず、顔のアップからいこうと思いますので」  カメラの液晶モニターを覗きながらかけてきたその声音には、まるで自分の望みが叶うかのような弾んだ色があった。  諸々のセッティングが完了したのだろう、次いでその手は受付テーブル上のスマホに伸び、アラームが鳴るかのチェックに移った。そして、ポップな電子音の鳴ることをたしかめると、 「くれぐれも、この音を聞いたら足をつけてください」  真顔にした彼女は改めて注意を促した。さすがに契約書を持ってきているということはなかったようだ。  かかったロープのせいで頷くことが難儀だったので、「はい」声で答えた。 「一度休憩入れますか?」  続けられたその問いに、どうしようか逡巡したが、できれば自分もいろいろな角度からを撮ってもらいたかったので、さっそくの撮影を頼んだ。―――が、 「あ、でも、雨野さん一息入れたかったら……」 「いえ、あたしのほうはまったく構いませんから」
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