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“ウウウッ!”
音なきうめきが脳内に反響する。
首に食い込むロープは力を込めているぶん、若干ではあるが、さっきよりきつさを希薄にさせている感じだった。が、そんなときもほんのわずかで、苦しさで力みが緩まるとともに、たちまち激痛は襲ってきて―――。
「グウェッ!」
連写音に重ね、人のものとは思えぬ音を今度は空気伝いに訊いた鼓膜が、同時にキーンという強烈な不快音を携えているのは、その機能を危うくしているからか―――。
そして、
“オオウォ……”
天井を映している網膜。それは眼球が意図せずあがりきっているから。
死ぬんじゃ……。
霞んできた視野がその危惧をよぎらせたものの、
“ウググゥ……”
……アラームが鳴るまでは大丈夫……。
わずかに残る意識が辛うじて鼓舞した。
(……ノゾミ……)
だが、
“ゲェェェェ……”
溶鉱炉の真上であぶられているごとき灼熱を感じていた全身は、その意思に抗った。
両足が圧力を感じてすぐロープを外した首は、意に反し即座の呼吸を拒否した。が、肺の働きを無理強いさせたら、さっきよりも激しい咳で息は運ばれた。それでも普通のとは到底いかない息遣いでフロアに降りると、途端にせりあがった胃が、その内容物の逆流感覚をもよおさせた。―――しかし、すんでのところでこらえた。
「大丈夫ですか!?」
同じ台詞をくり返した彼女は、お茶のつがれたコップをうつむくわたしの顔面に差しだしながら、やはり背中をさすってくれた。
その彼女の手が、貼りつくシャツの不快さを覚えさせた。また、発汗は背中だけではなく、全身に広がっており、寒いくらいだった室内を幻にしていた。
咳が収まり動悸も落ち着くまで、さっきよりも時間がかかった。その間なにも声をかけず、ずっと背をさすってくれていた彼女に、ありがとうの意味で一つ頷くと、コップを受けとった。
一口含んだお茶はしかし、大きくむせた喉が吐きだしてしまった。
「ごめんなさい」
涙目の詫びは、自分でも聞きとれないほどかすれていて―――。
「いいんです、いいんです」
早口を返した彼女は、再開された咳で震える手からコップを受けとると、急くように探ったスカートのポケットからハンカチを出し、わたしの口元へ寄せた。
やはりありがとうの頷きを返し、いい香りのするそれを使わせてもらった。
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