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わたしの頷きを見ると、
「二階席もございますが」
変わらぬ丁寧な調子で彼女は添えた。
空いていれば上階で、と思っていたわたしは、「じゃあ」と、通路奥に見える折り返し階段へ向かった。
「ごゆっくりどうぞ」
背に送られたべつの声の主も、やはり若い女性―――といっても、三〇を少しすぎたぐらいか―――で、彼女が立つカウンターの前に席はなく、ドアから伸びる通路を挟んでのその正面にも、客の姿のないふたりがけのテーブルが三脚置いてあるだけなので、そう広くはないフロア―に圧迫感はなかった。
同じく人影のなかった二階スペースには、出窓以外にも両開きの窓が三つほどあった。それらは神社側に向いて開放されており、重なる青葉の上方からの陽射しをとり込んで、階下よりも遥かに明るいスペースを演出している。
人の溢れていた今日の街だったのに、ひとりも来店者がいないのは……見つけにくい場所柄かしら?―――と勘ぐりながら眺めた境内とは逆側の壁には、書棚のような造りが一角に設えてあり、そこには、洋書や鉢植えのハーブ、額に入ったポストカードなどが、無造作に飾られている。
ありがちだけど、結構好きな演出。
心中で称賛し、陽光を正面に臨む一席に着いた。
境内側、書棚側に、それぞれ三脚ずつ並べた一階と同じふたりがけテーブルの配置は、やはり下同様、隣席とのスペースがゆったりとられており、素直に好感が持てた。
間もなくあがってきたウェイトレスにダージリンアイスティーを頼み、置かれていったグラスの水を半分ほど飲む。フーッと一息吐きだし、木製の背もたれにもたれると、窓からの心地よい微風が頬をなぜた。
いいお店、見つけちゃった。
という喜びに続き、
それにしても、こんなとこ、前からあったかしら……。
さっきと同じ問いが、再び浮かんだ。―――が、
「ま、いっか」
息でつぶやき、トートバックからスマホを出した。
開いたのは、登録している小説投稿サイト。
とあるコンテストの結果発表画面へいく。それはそのサイトと大手出版社がコラボして開催したもの。
最終選考欄に自分のペンネームがある。しかし、今日告示のあった受賞者一覧には、ない。何度見ても、同じ。
と、そのスマホが電子音でメール通知を知らせた。
画面を変える。
〈サッチン〉
ごく見慣れた送信者のニックネームの下に、
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