(四)

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 限られた時間は、首の痛みや汗を吸った服の不快さを薄め、踏み台の上に立たせた。だが、三度(みたび)全体重がかけられた首には、案の定というべきの想像を絶した激痛が走った。それは、うめく声も忘れたほどの。  涙を噴出させるあがりきった目は、今にも飛びだしそうで―――。それを辛うじて押しとどめている眼筋の裏では、ブチブチとなにかがきれていく音が後を絶たない。  二度目よりもよりひどい状況。  首が引き千切れる!  そんな恐怖感を覚えたものの、しかし、意思は両足の着地を許さなかった。“これが最後のチャンス”という覚悟が、畏怖を微細ながら上まわっていたからか―――。  今何秒!?  シャッター音などすでに捉えることができなくなっている意識の中で問いかけた先が誰であるのか、自分でもわからなくなってきて―――。  九秒までは死なない。それは本当なの!?―――これも誰に尋ねているのか……。  早く、アラーム!―――そう懇願したときだった。  全身に生じていた小刻みな震えがそのふり幅を大きくし、痙攣といった様相に変わって―――。  抜けていく力を制御できる状況に、とてもではないが、あらず―――。  だめ……。  目に映る天井の灰色がたちまち白へ変色してゆき―――。  もう、だめ……。  両足を生存本能にゆだねようとした間際、  えっ……!  摩訶不思議な現象がわたしを包み込んだ。  すべての苦しみが……消えた―――。  白濁を見せていた視界は急速にクリアを呈し、固定されたままだった眼球も自由をとり戻した。その証拠が、斜め下方にはっきり捉えている花奈の姿。  それに、全身をいぶしていた激烈な熱は―――なぜだろう―――淫靡な興奮が誘発するそれのように、すり変わっていて―――。  まさか、失神してしまったの……。  動く目を左右に流す。  ギャラリー内の情景に変化はまったくなく、途切れのないシャッター音も、明確に耳はつかんでいる。  これって、どういうこと……。  自身に内包されていた未知のマゾヒズムが、限界的な苦悶の先に快楽を見いださせたとでもいうのか……。  にわかには信じられなかった。―――が、実際今、熱せられ脈動する下腹部は、猛烈な快感を得ていて……。それはもうすぐ登頂を迎える手淫中の感覚のようであり……。  自然とカメラマンに戻った焦点が異変を知らせた。
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