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途切れないシャッター音は、いつしか視姦されている錯覚を引き寄せ、劣情を大いにあおっていた。
見てぇ……。
……見てぇ……。
…………見てぇ……。
音にならない悶え声を荒い息の間にあげていたわたしは、興奮を押さえ込みながら黙々とシャッターを切り続ける彼女に、けなげさを感じていて―――。
そしてそんな姿にたまらないいとおしさを抱きもした心情は、動かない手を、真っ赤に上気した彼女の頬へ必死に差し向けようとした。
触れて快楽を一緒に味わいたい。女にしか与えられない感動をともにしたい。精神的な合体を得たい。
アアッ!
登頂しそうになる躰を、
もうちょっと!
快感のさらなる深みを求めるため、力んでとどめた。―――そのとき、
なんの前触れもなく、突如視界が波打ち始めた。それにともなって、当然花奈の姿も、その前に立つカメラも、盛大に歪み―――。
なにっ!?
たちまち眼前が理解不能な混沌とした景色になったのは、絶頂を抑圧した末の脳内の狂い、もしくは反乱が引き起こした結果か―――。
が、それも寸時のことであって、
えっ!?
再び規律をとり戻した映像には花奈、ではなく、自分自身の姿が―――。
どうして……?
さっき確認した写真が網膜に残っているの……?
いや、そうじゃない。今見ているのは静止画ではなく、動画。必死にもがいている自分……。
これは幻視……? 幻覚……?
いや、それも違う!
わたしの両眼はしっかりと捉えている。苦しみもだえるわたしを映す、姿見を。それはごく見慣れた縦長の―――。
では、シャッター音も消え失せているここは……。
カメラの存在など跡形もなくなっている空間全体に目を走らせる。
途端、今まで感じていなかった閉塞感。加えて、デスクトップPCの置かれる隅のライティングデスク、並びに、その背面に認めた暖色の壁紙が、ギャラリー内ではないことを如実に訴えていて―――。
両腕に触れる柔らかな感触に気づいた。
いつも使っている柔軟剤のいい香りがするそれは……衣類。
ではわたしがいるのは、クローゼットの中……。
間違いない。ここは、自室。自分の部屋。
どういうこと……。
だがその疑問は、囚われた“見なければ”という強迫観念によって、即粉砕される。
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