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突然晴れた眼前に、
「ノゾミ」
覗き込むような顔があった。それはわたしのものではなく―――。
「……じゃあ、またねくるからね」
動いた唇の端にある小さなホクロは、まぎれもなく小学生時代から見慣れている、サッチンのもの。
その彼女の顔がスライドすると、今度は母のそれが現れて―――。
「ちょっとさっちゃん、送ってくるからね」
わたしの肩を軽く叩いていった母は、その相変わらず化粧っ気の薄い表情を、すると視野から消した。
きてくれていたのか……。
あとに残った天井の白を眺めながら思った。もうすっかり目になじんだその色は、気分を落ち着かせはするが、わたしの部屋のものではない。
悪いことをした……。
せっかくいてくれたのなら……。
でも彼女にも母にも、起きているのか眠っているのかわからなかっただろう―――動かない目をずっと開け続けているわたしの顔では。それに、目覚めていても、なんの反応も返せずにいるこの身では、どっち道申し訳なさはわく。
横滑りするドアの開閉音を聞くと、無音の世界が訪れた。
病院のロビーまでの間、今日のサッチンと母はどんな会話を交わすのだろうか……。
やはりわたしがこうなってしまった原因についてだろうか……。
だがふたりは、いや、誰しも、解明などできないだろう。
と、ドアの開かれる音がして、
「あ、お友だち帰られたんですか」
聞き慣れた、少し高めの明るい声音が届いてきた。
「望さん、うらやましいです。しょっちゅうお友だちがお見舞いにきてくれるなんて」
かたわらに近づいてから聞こえたその言葉に、「サッチンだけだけど」との口は当然動くはずもなく―――。
「でも、ちょうどよかった」
そういって、わたしの顔に笑顔を寄せた彼女は、
「清拭しますね~」
変わらない柔らかな声を降らせた。
この時間の決まりごとに、わたしは意識だけで頷く。
それにしてもリアルな夢だった―――。
そしてエキサイティングなこのストーリーは、現実にあったあの同窓会の通知、そして自らの苦悶を見ることができたからこそ、浮かんだのではないか? であればわたしの想像力も捨てたものではない。―――わたしは動かない顔でほくそ笑む。
しかし、この物語を原稿にすることは、残念ではあるが、まずもって不可能だろう。
と、
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