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《葉書きた~? 出るでしょ~?》
淡白なメッセージ。
用件の意味はすぐに察せられた。
前日、葦谷望様という印刷文字の葉書が自宅である実家に届いていた。往復葉書などなんだろうと思って開いたところ、それは小学校時代の同窓会案内。成人を記念して行おうという。
小学生時代から未だつき合いの続いている友人は、サッチンぐらいだった。それは、高校までずっと同じところに通い、同じ部活ですごした、という経緯が大きいと思う。大学も同じ所へ、と、お互い思っていたのだが、それだけは残念ながら叶わなかった。
それはともかく―――、
スマホから顔をあげ、短い回想をきった。
見たあの夢は、この葉書が原因だったのではないか……。しかも、梅雨時ということも手伝い……。
出欠の返信期日はまだずいぶん先であり、こちらからもサッチンに連絡しよう、と思いながら就いた床での、夢。奇しくもあのときの事実をきっちりとトレースしていた、夢。
悪夢には違いなかった。しかし、無性に興奮を促す映像であり……。
実際目覚めた躰は汗だくで、股間部は、それではない液体で濡れもしていて……。
あの事件が、小説、しかもホラー物を書くにいたった原因……なのだと思う。―――あんな衝撃を、興奮を、自らの手で生みだしてみたい、との願望が働き……。
だが、投稿したどの作品もが、未だ最終選考以上に届いていないことを考えると、その望みは叶えられていないといっていい。
今までに幾度か送られてきた書評には、決まって、“リアリティーの欠如”が指摘されており……。それは自身でも感じてはいて……。
だからこそあの光景を、あの表情を、もう一度見たい。あの血の騒ぎをもう一度味わいたい。そうすればきっと……。
だが、そんなこと、できるはずもなく……。
さすがにもう、才能のないことを認めるか……。
そう自身に問いかけたとき、
「お待たせいたしました」
柔らかな声で我に返った。
「失礼いたします」
と、テーブルに注文の品を置いたウェイトレスは、ふいに、「あっ」声を洩らした。
え? という顔を彼女に向けると、その目はわたしのスマホに落ちていて―――。
しかしすかさず、
「いえ、失礼しました」
彼女はトレーを胸に抱きながら、片方の手で口元を押さえた。
「なにか……?」
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