(三)

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(三)

     (三)  ワタシの視界から去った彼女は、壁の調光ダイヤルをひねったようで、シャンデリアの光量が絞られた。  出窓に映っていた室内は消え、星空がかわりに浮かびあがった。  晴れてよかった……。  この時期にやってくるということを聞いて、それだけが心配だった。  再び出窓の前に現れた彼女の後ろ姿は、上下スウェットでもわかる見事なスタイル。しかしそれ以上に、その下の裸身が大人の女性美を誇ることを、ワタシは知っている。  素肌を露わにした彼女がワタシの服をも優しく脱がし、そして一緒にベッドに入るようになったのは、高校にあがってからだったか……。  布団の中でワタシに這わせる、その形のよい唇の感触を感じとる術を、もちろんこの身はどこにも持ち得ない。が、それが優しく、また激しくくり返されていることは、洩れ聞こえる吐息の強弱が安易に想像させた。  いつしかワタシの顔は彼女のそれを離れ、膨らんだ胸部へと導かれる。そしてワタシの開かない小さな口は、その頂をまさぐるように動かされ、鼓膜は頭上に小さな喘ぎをとり込む。  彼女がなにをしているのかはわかっていた。それは遥か昔、自分も経験していたことだったから。ただ、人形と一緒に、という形ではなかったが。  だから、今ワタシから離れている彼女の片方の手がどこで蠢いているのかも、たやすく見当がつく。  両の頂点を交互にワタシで刺激しながらの細身は、その蠕動を徐々に激しくさせていく。それにともない増幅する悶え声はしかし、微かに残る羞恥のためか、時々(じじ)、突然こらえたように音を失くす。  部屋は離れているものの、一つ屋根の下に、あの家政婦だけはいつもいるのだ。   とはいえ、絶頂へ突き進む悦楽の前に、そんな努力は当然長続きはせず、嬌声は一段と激したボリュームで、すぐさま吐きだされる。それを幾度かくり返した彼女が、しまいにいつもワタシの手をくわえ込むのは、音の漏洩を最小限に押さえ込むための最後の手段と考えてのことだろう。  それでも完全には遮断できるものではなかったその泣き声のような音をともなって、リズミカルに動く片腕は、そのころにはすでに掛け布団をワタシたちの上から飛ばし、二つの裸身を闇の中に晒していた。
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