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少なくとも現在のワタシは、精神的にも肉体的にも、彼女のためになっていると思う。
その見返りの一つだったと考えられるのが、記念すべき初給料の唯一の使い道を、ワタシの新たな、そして決して安くはない衣装にあててくれたことだ。替えの服は、いくらもあるというのに。
彼女の中では、ワタシは単なる人形ではなく、大切な妹、大切なパートナー―――。
その想いを承知していたからこそ、彼女がそそぐあらゆる形の情愛に、不快さ、わずらわしさなどを抱くことは一度たりともなく、ゆえに、「このままでも」という気持ちを持っていたことも、たしかな事実だった。
しかし―――、
歳を増すごとに美しさの磨かれていく彼女の、その髪の香り、その吐息、その柔らかな肌……すべてをこの身で感じたい。そして、毎週彼女が溺れるあの極上の悦楽を、ワタシも再び、生身となった躰に享受し、彼女と同じく歓喜の涙で頬を濡らしたい。……できることなら、立場は変われど、今まで通り彼女と一緒に。
―――いつしかわきあがっていたその願望が、自ずと決断させていた。
「あっ、見えた」
あがった彼女の声が、しばしそれていたワタシの意識を夜空に向けた。
窓外に、一際輝く楕円。
尾を引く。
まるで音まで聞こえてきそうな近さ。
その音は、涼やかな、まるで鈴の鳴るような……。
あの、七六年周期の彗星にも勝るとも劣らない明るさといわれる新たな星へ、心中で手を組んだ。
そして声にならない声で祈る。
“彼女に、どうか彼女に―――”
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