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きっとそうだったんだ。だから、窓に向けて置かれたソファーがワタシの定位置になっていたのは、ラッキーだったということだ。
だが、解答を得た満足感は、再始動させた指先の律動で瞬時に吹き飛んだ。
『早く! いえだめ……もっとゆっくり……』
そんな矛盾した想いを交差させながらゴールをたぐり寄せていたワタシの脳裡には、彼女の裸身がくっきりと甦っていて―――。
あの週末を、これからも失いたくはない。
立場は変わっても……。ワタシはそう願ってきた。
こうなったワタシを……いや、雇い主の娘と家政婦、その間柄を長年継続させてきた久江さんという女性を、はたして彼女は受け入れてくれるだろうか。快楽を追い求めるパートナーとして。
大丈夫。―――押し寄せる間隔を狭めてきていた波の隙間で、いい聞かせた。
人形より……動かない女より、人間の……同じ快感のつぼを知っている女のほうがいい。―――それにきっと気づいてくれるはず。わかってくれるはず。
そう結論づけたとき、ワタシは立ったままはてた。
鼓膜に、喜びのうめきが残響していた。
はばかることなく歓喜の喉を震わせていた自分を恥じる気持ちは、人間となることができた改めての嬉しさに覆いつくされていた。
また、彼女に見つかってもいい、気づかれてもいい、との覚悟もあったのは、おそらく、この破廉恥な姿態を無防備に晒すことによって、“立場は変わっても”の願いを、素直に吐露できそうな気もしていたから。
そしてなんなら、オリーブであったワタシが久江さんと入れ替わった事実を、打ち明けてもいい。だからこそ、溜め込んでいた“人間”への執着心が報われた今、いちはやく人として生きている実感を味わいたく、躰をまさぐったのだ、ともつけ加えて。
彼女は信じてくれるだろうか……。
もし眉をひそめるようであれば―――おそらくそうであろうが―――彼女以外はオリーブしか知らない、毎週末の詳細な流れを耳打ちして……。
そうすれば、彼女はさすがに首肯し、今まで通りの週末を迎え続けたいというワタシの念願が、それこそいちはやく叶うというものではないだろうか……。
口端の自然とあがった感覚が、やはり人間を実感させた。
乱れた服を整える目に、湯気をわずかにさせていたキッチンカウンター上の料理が入った。
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