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このお店、いつできたのか訊いてみようか―――。
すぐさま顔をふったが、すらりとしたスタイルは、すでに階段の陰に隠れるところだった。
……まあ、いいか。
思い直し、琥珀色を喉へ流し込んだ。上品な味と香りは、たちまちささやかな幸福感を生んだ。そして、ロックアイスを一回かきまわすと、
しかし……。
思考を転換させた。
こんなところで応援者に出逢えるなんて……。
『明日に』―――前向きな印象を感じさせるそのペンネームは、自分の苗字「葦谷」の読みから持ってきた。
仲のよい友人には、小説を書いていること、サイトに載せていることを打ち明けていた。しかし、彼女からのような熱烈な声をもらったことはない。それはサッチンからも。
と―――、
頭をかすめたその旧友の顔によって呼び戻された同窓会の件が、新作のアイデアを突如引いた。それには、ウェイトレスの彼女がもたらしてくれた喜びと、再度浮上したやる気も、加担していたのかもしれないが。
あのときの事件を題材にし―――。
“彼女”がもし生きていて、そして復讐を行う―――という物語はどうだろうか。あの仕打ちは、報復されて当然の行為だ。
ありきたりか……? との考えがすぐに追従したが、やっと浮かんだ案をたやすく却下したくはない。
が―――、
仮にそのプランでいくとしても、リアリティーのある描写がどこまでできるか……という不安は、やはり拭えない。
もう一度、あの光景を見ることができたら……。
意図せず見つめ続けていたチムニーグラスの氷が音を鳴らした刹那、視界全体が翳った。面をあげると、窓外の空はその表情を、明色から曇色に変化させていた。そして同じくわたしの内でも、出逢えた応援者の期待が、瞬く間に、プレッシャーへと変わっていた。
*
*
*
ステンレスのポールからさがる目の前のロープは、わっか状になっていて―――。
その先に、自分を見つめる二つの目。
蛍光灯の明りが隅々まで広がる部屋の外は、はたして昼間なのか夜なのか……。
机の上の電源の入ったPCに視線を流し、そっと囁く。
「できる……。これから見ることが、できる……」
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