【音のない囁き……あまく】

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 冗談がわかり、決して曲がったことが大嫌いという彼の人間性ではない。しかし、人としてやったらやばいことの判断は当然つくやつだ。彼も酔っていたことは酔っていただろうが、俺より数段強い。ほとんど酩酊状態の俺の行動など、そんな彼であれば、いくら女の子と楽しんでいてもたやすく追えたと思う。  第一、やつに腕をとられ、女の子たちに見送られるシーンは、ごくぼんやりとだが網膜に甦らすことができた。  帰路には俺と彼しかいなかった。……うん、そうだ。  だったらそのあとということか……。  そのあと……永と一緒に駅に向かった……のかは、もうまったく記憶が―――。  永とは同じ路線の同じ方面。だが、泥酔状態の俺を連れて、はたして彼は電車を使っただろうか……。  答えは否だ。  過去にも幾度か同じようなシチュエーションをもったことがある。そのたび彼は、俺をタクシーに押し込んだ。俺の財布から距離相当の金を出し、行き先を告げた運転手に前もって渡して―――ということを毎度翌日教えられた。  ベルトが半分ほど抜けている床のズボンをとりあげ、ポケットを探った。  ……やはり。  小銭とともにあったのは、しわくちゃになったタクシーの領収書。  俺は永と一緒にいる状況からひとりタクシーに乗り、この部屋まで帰ってきた―――。  だとすると、彼女をどこで拾ったのか……。  タクシーから降りると、このアパート前にたたずんでいた……なんてことはとても考えられない。
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