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しかしそれにしても、まったく一緒だ……と感じさせたのは、すっかり日を落としたあたりに洩れ広がる、出窓からの暖かな明りもで―――。
そして、その色つきの光に浮かびあがる雨脚が、
もしや、これは幻想……? まだ俺は夢を……?
といった、怖れにも似た不安をかもしださせ―――。
と、その視界にゆっくりと入り込んできたタクシーが、そして店の前でとまった。
そこには一時停止の標識が立ち、とまるタクシーの前には、二車線の車道が舗装路とクロスするように流れていた。ゆえに店は、交差する道の一角にたたずんでいたのだ。
二台三台と横切る車をやりすごしたタクシーが再びゆっくり発進していくと、まるで引き寄せられるように、《BAR mannequin》の入口へ、俺の足は動いていた。これまた夢の中のシチュエーションと重なる……。との訝しみを持ちながら。
ドアからも、また出窓からも、中の気配は窺えず―――。しかしここへきてみると、なぜだかムスクの香りが妙に鼻孔をくすぐるような気がして……。
それがまた、
これは幻想……? まだ俺は夢を……?
の慄きをもたらした。
もし……もしそうだとすれば……中には、あのエキゾチックな細面の、美形マスターがいて、そして、テーブル席の奥の暗がりには……。
怖けながらも、わきあがった好奇心で伸びた手―――だったが、「フッ」と再び洩らした苦笑で、ドアノブに触れる寸前引かれたのは、それこそ脳内に蘇生した、そのマネキンの顔ゆえだった。
―――たとえこの店が夢の中と同じものであったとしても、だからなんだというのか。もう自分には、愚痴を聞いてもらう必要も、勝代から受けるストレスを和らげるために、ものいわぬ女に慰めを求める必要もないのだ。
勝代の指定で購入した趣味でもないジャケットのポケットに、引いたその手を突っ込むと、二度と訪れることはないと決めた店を背にした。
一方通行だった舗装路をいく目には、並ぶ住宅の窓明りが映り込み、そして、どこからともなく漂ってきた夕餉の香りが、ふと思わせた―――。
今夜はカレ―にしようか……。もちろんインスタントではなく、時間をかけてつくり込んだ……そう、ちょっと奮発してシーフードカレーに。
だったら、あの駅前のスーパーに寄って……。
さっそく計画を立ちあげた俺の手は、携帯で最寄りの駅を探索し始めた。
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