夢谷エリカは魔法少女にならない

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「お願いエリカちゃん。どうしてもダメ?」 「うーん。ごめんなさい」  夢谷(ゆめたに)エリカは頭を下げた。  エリカのつむじが見える方にはきらびやかな衣装に包まれた少女たちが困った顔をして立っている。 「エリカちゃんなら私たち魔法少女と一緒にこの街を守って大活躍できると思うの」  リーダーの桃色の衣装を着た魔法少女が言う。 「そうそう! エリカちゃんが仲間になれば悪の組織・イジワールを壊滅させることができるよ」 「私たち六人揃えばどんな敵が襲ってきたってへっちゃらだよ!!」  リーダーの桃色魔法少女に続いて黄色い衣装の魔法少女と青色の衣装の魔法少女が勧誘を一押しする。どちらも艶のある髪に長く白い脚がまぶしい。  こんなに可憐な容姿に変貌できるなら承ってもいいかと首を縦に振ってしまいそうになるが、エリカはもう一度頭を下げた。 「ごめんね。私が悪の組織と戦うなんて考えられない。街の平和を守れないのは申し訳ないけれど、他の子をあたって」  そう断るとカラフルな魔法少女たちは肩を落としてエリカのもとを去っていった。  魔法少女。  変身をして悪と戦い街の平和を守る少女たちの呼称。  最初は数少なかった魔法少女たちは敵の強さと比例するように数を増やしていった。  今では単独で活動する魔法少女はソロと言われ、グループを組む魔法少女たちが主になっている。  数が増えることによって魔法少女というものが憧れの孤高の存在から親近感を抱けるアイドルにまで敷居が低くなり、今や学生のなりたい職業ナンバーワンになっていた。 「ただちょっと勉強が得意で運動神経が良いだけなんだけどなぁ」  夢谷エリカはいわゆる変身ヒーローになる器の人物らしい。  らしいというのはエリカ自身がそう思っているわけではないからだ。  成績優秀・文武両道・人望厚く友人も多い。確かにクラスの人気者になる要素三拍子は揃っている。  しかしそれはあくまで日常のなかでの話。  いきなり悪と戦い平和を守るヒーローになれと言われて頷けるのは漫画のようなフィクションの世界だけの話だ。  自分がヒーローなんてとんでもない。  なのにこの地域を守る活動をしている魔法少女たちはこぞってエリカを自分たちのグループにいれようとした。 「うちらのグループに入ってよエリカちゃん!」 「ちょっと待って! 私たちのグループに入ればもれなく追加戦士枠になるわよ」 「いやいや、チームの仲の良さならうちは負けないよ」  今日も魔法少女たちがエリカを勧誘しにくる。  中には断り続けているのに粘り強くスカウトしに来るグループもいた。 「エリカちゃんを人気の出ないグリーン枠にスカウトするグループなんてろくな魔法少女じゃないわ」 「なによ! そっちのマスコットキャラなんて不細工じゃない!」 「あんたらの必殺技なんてショボいのばっかりよねー」  勧誘は時間が経つにつれて小競り合いになっていき、とても魔法少女の口から言ってはいけないような言葉が飛び交う。これもエリカにとって見慣れた日常。 「気が変わったらいつでも私たちに会いにきてね。はい、これ」 「抜け駆けズルい! エリカちゃん、これも受け取って!」  魔法少女たちはエリカに自分たちの変身アイテムを一方的に渡すと去っていった。 「こんなに貰っちゃった……」  エリカの腕の中には変身コンパクトに変身ステッキ、変身型ケータイが溢れんばかりに収まっていた。
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