32 不審な書類

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32 不審な書類

sideシャルルダルク マリーナは帰りの馬車で何も喋らなかった。 時折、ぼーっと外を眺めるだけだった。 「兄上、ベルゼを不敬罪で投獄出来ぬのですか?」 「それは難しいだろう。 俺たちに直接無礼を働いてはおらぬからな。 それに、奴は隣国の伯爵だ。 外交的にも今はどうにもならぬ。」 「しかし…」 「良いのです。 お2人とも、私のために危険な事はしないでください。」  マリーナが言う。 「そなたはまだ、あの男の事を…その…」 「………。」 マリーナはその俺の質問には答えなかった。 馬車が後宮に着き、マリーナは帰って行った。 俺は宮殿の執務室に戻り、遅れていた書類にハイスピードで目を通していった。 「ん? この書類は何だ?」 傍にひかえるデオスに尋ねた。 「は? 後宮に新しく召使いが入るという書類でございますか? 何か不審な点が…?」 「セイント国からになっておるな…」 「はい。 どこかの貧乏農家からではないのでしょうか?」 「どこの家の出か、調べさせよ。」 俺は言う。 「はぁ… あ、いえ、かしこまりました。」 デオスはすぐに部屋から出て行った。 俺の勘繰り過ぎだと良いのだが… もしも… いや、考え過ぎだ。 しかし、翌日、デオスが報告書を差し出した。 「ライラック伯爵家の召使い… 確かなのか?」 「間違いございません。」 「その召使いがこの国に入ったら拷問にかけよ。 全て吐かせるのだ。」 「かしこまりました。」 デオスは出て行った。 さて、どうすべきか? 召使いはおそらくベルゼが依頼した内容を吐くだろう。 俺はレガットを呼んだ。 「どうしました? 兄上からお呼びがかかるとは。」 「ベルゼが刺客を差し向けたようだぞ。」 「は?」 俺は経緯を説明する。 「こう言ってはなんですが… 最低な男ですね。 しかし、どうなさるおつもりで?」 「後宮に刺客を送ると言う事は、我が国にスパイを差し向けた事と同じだ。 死罪は免れまい。 ただ…」 「心配はマリーナでございますね?」 「あぁ… マリーナに知らせるべきかどうか…」 「ふむ……」  「俺から先に伝えよう。」 「わかりました。」 そして、レガットは自室に戻り、俺は重たい足を引きずる気分でマリーナの薬部屋に向かった。 「シャルルダルク様。 お暇なのですか?」 マリーナは相変わらず薬部屋を行ったり来たりしている。 「だから、暇では無いと言うておろう。 ちょっと大事な話がある。」 「大事な話、でございますか?」 「そうだ。」 俺の表情はきっと暗いだろう。 俺はもちろんベルゼが死のうとどうでも良いが、マリーナの気持ちを考えると複雑なものがある。
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