巻1 道士、劉璋。僵鬼として黄泉還るの事

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 なにごとが起こったのか、わからない。  仰ぐと、傍らに、愚鈍の弟、孫亮の姿があった。  彼を見つめ、道服の袖で汗を拭いながら、照れたような笑顔を浮かべている。その表情、どこかで見たようなと思って、暫く眺めて、あぁと思う。  褒めてもらうのを待つ犬のそれに、そっくりだ。  孫亮の肩越しにさらに上へ目をやると三清殿があり、長い階段の上、掲げらえた御殿の御簾の奥には、人の見ながら神の名を継ぐ、父、現泰山府君が座す姿が見えた。  だが、その脇に匂うやかな美しい坤道(女道士)が控えているのを確かめるのは初めてだ。  また、風が吹いた。 彼の長い髪が青い空に自由に舞う。  劉璋は自分が髪を結っていないことを不思議な思いで感じた。  なにやら、すべてが遠い。彼の知らない理由でほどけてゆくあたりの緊張に乗じるように、孫亮が、彼の目を覗き込み、手をとった。
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