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なにごとが起こったのか、わからない。
仰ぐと、傍らに、愚鈍の弟、孫亮の姿があった。
彼を見つめ、道服の袖で汗を拭いながら、照れたような笑顔を浮かべている。その表情、どこかで見たようなと思って、暫く眺めて、あぁと思う。
褒めてもらうのを待つ犬のそれに、そっくりだ。
孫亮の肩越しにさらに上へ目をやると三清殿があり、長い階段の上、掲げらえた御殿の御簾の奥には、人の見ながら神の名を継ぐ、父、現泰山府君が座す姿が見えた。
だが、その脇に匂うやかな美しい坤道が控えているのを確かめるのは初めてだ。
また、風が吹いた。
彼の長い髪が青い空に自由に舞う。
劉璋は自分が髪を結っていないことを不思議な思いで感じた。
なにやら、すべてが遠い。彼の知らない理由でほどけてゆくあたりの緊張に乗じるように、孫亮が、彼の目を覗き込み、手をとった。
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